それでいてここまで琴音ちゃんに執着するって、どっか病んでんじゃねえの、こいつ。 あークッソ腹立つわ。しょうがねえな、暗殺拳と格闘技を融合させた俺の超必殺技、覇王剛掌波はおうごうしょうはを見せる時がついにやってきたか。「この野郎ぉぉぉぉ!!!」 しかし、ずっと池谷のターン! せっかちだな、俺が立ち上がるまで待てよ下衆。 いや待ってください。 ……なんて言葉が口から出る前に。 誰かが無造作に捨てた空のペットボトルを、俺に追撃しようとした池谷が踏んで、思いっきり体のバランスを失いやがった。 その様子が、俺にはスローモーションに感じられる。すげえ、これが夢想転生ってやつか。 ──じゃなくて。 おいおい、このままだと池谷が琴音ちゃんのおっぱいにダイレクトアタックしてしまうじゃないか! それだけは許せん!「琴音ちゃん、危ない!」「きゃっ」 目の前にあった腕を思い切り引っ張ると、琴音ちゃんはこちらへ覆いかぶさるように倒れ込んできた。 クッションとなるはずのおっぱいを見失った池谷は、そのまま顔面からフンコロガシオブジェへと突っ込んだ。 ゴヅン。 うわ、すっげえ鈍い音。あ、鼻血出しながらうずくまってる。ざまあみろ。 まあ、俺も倒れ込んできた琴音ちゃんのおっぱいに顔を包まれて、鼻血出そうだけどな! 悲しいけどこれ戦争なのよね。出血の意味が全然違うの。 ペットボトルを駅前に捨てたやつグッジョブ。本来なら小一時間説教するところだが、今だけは褒めてやりたい。「……琴音ちゃん、逃げるぞ!」「は、はい!」 おっぱいの感触からは離れがたいが、さすがに池谷と同類に堕ちても仕方ないし、このカオスな状況から一刻も早く抜け出したい。 俺は立ち上がって琴音ちゃんの手を引き、目的地の外合百貨店そとごうひゃっかてんとは別の方向に逃げ出した。 駆け落ちではない、断じて。