「残念ながらちょっと事情があってな。街の外に出掛けるようなことは出来ないんだよ」「そう言えば急用があるとか言ってましたね」 昨夜の厩舎でその辺の事情を多少は聞いていたスルニンの言葉に、今度は頷く。「そうだ。……ただ、午後から行われるっていう模擬戦になら付き合ってもいいぞ。ただでさえ今日は時間を持てあましているんだし」 そもそもギルドに入って依頼を探していた理由が、暇潰しに近いものだった。 結局ギルドの依頼に関しては色々とあってやる気を失ったのだが。 そういう意味では、スルニンやエクリルからの誘いは渡りに船であり、断る理由はない。「え? 本当に?」 だが、エクリルにしてみればレイが承諾するというのは意外だったのだろう。思わずといった様子で聞き返す。 もっとも、ランクB冒険者を雇う際の報酬を考えれば、この驚きは当然と言ってもよかった。「ああ。今も言った通り暇だしな。身体を動かすという意味では、寧ろありがたい」「……レイさん。一応言っておきますが、お願いするのは新人達相手の模擬戦ですよ? 決して貴方が本気で戦えるような相手ではないのを承知の上でのことですよね?」 念の為と告げてくるスルニンに頷きを返すと、それでようやく納得したのだろう。小さく頷きを返し、訓練場へと向かうべくセトを愛でているミレイヌを強制連行すべく歩を進めるのだった。「むー……まだ時間があるんだから、もうちょっとくらいセトちゃんと遊ばせてくれたっていいじゃない」 ギルドの裏手にある訓練所で、ミレイヌが呟く。 まだまだセトと戯れていたかったのを、スルニンに引きずられるようにして連れてこられたのが不満なのだろう。 確かにミレイヌの言葉通り訓練所には何人かが訓練を行っているが、明日ゴブリン討伐に向かうメンバーは1人も存在していなかった。