以前、ディアーヌと出会った時にも、感じた疑問だが、彼らはどんな素性の人間なのだろうか? 冒険者ではない。能力的にも、知識的にも、確実である。 傭兵か? 冒険者を敵視しているところなどは、同じだろう。その線は有り得る。だが、冒険者に対して無知過ぎる理由にはならない。 シビュラやディアーヌは、冒険者に詳しくないというよりは、冒険者を見たことさえ稀な様子だった。 隠しているつもりかもしれないが、隠しきれていないほどに冒険者を知らなすぎる。常識さえ欠けているように思えた。 だが、そんな人間いるだろうか? これが、子供であれば分かる。しかし、ある一定の実力を備えたシビュラが、これまで冒険者に接したことがない? 有り得ない。 それこそ、冒険者が一切いない土地で生まれ育ったのでもなければ、説明がつかないのだ。 では、それはどんな土地か? 冒険者が一切おらず、むしろ冒険者を見下したり敵視したりするような土地。 北の大国、レイドス王国しか考えられなかった。 だとすれば、ビスコットの態度にも説明がつく。 どうしてレイドス王国の人間がこんな場所にいるかということだが……。工作員やスパイが送り込まれているのは敵国同士なら当然だろうし、クランゼルからレイドスに潜り込んでいる人間だっているだろう。 正直、シビュラやビスコットがスパイには思えんけどな。能力的には騎士や兵士の類であり、隠密行動や破壊工作に向いているとは思えないのだ。 こんだけ存在感があって目立つうえに、脇の甘いスパイなどいないだろう。レイドス王国出身の跳ねっ返りお嬢様のお忍び旅行とでも言われた方が、よほど納得できる。 さて、どうしようか? 今問い詰めたら、正体を知ることができそうな気もする。だが、向こうは敵国に潜入中なのだ。 正体がバレたと思えば、確実に口封じにくることだろう。ケイトリーを守りながら、シビュラとビスコット2人を相手にするのはなかなか難しいと思われた。 それに、ここで上手く切り抜けたとしても、今後ケイトリーが狙われる可能性だってある。ここは、気付かないフリをして、とりあえず見逃すのが吉だろう。「……あ、姉御。これ以上はヤバいっすよ!」「そ、そうだね。ここはずらかるとしよう」 上手い具合に、向こうも退散する気満々だ。コソコソと話し合っている。水を向けてやれば、去るだろう。「……ケイトリー、もういく」「え? いいのですか?」「これ以上は時間の無駄」「お姉様がそう言われるのでしたら……」