今の私はドレス着用。ただコルセットなどはなし。 正直に申し上げると、コルセットやパニエがないならドレス姿でも馬に乗れる自信はある。 しかし、普通のご令嬢ならばこんな姿で馬には乗れないはず。はしたないはず。 そうですよね? エレーナ先生? 私はエレーナ先生に目線を向けた。 いつも淑女の何たるかを語ってくださるエレーナ先生ならば、女性がドレスで乗馬などはしたない! と断ってくれるはず! 私の期待の眼差しにエレーナ先生は頷いた。「確か、リョウ様は乗馬の腕が素晴らしいと伺っております。横乗りならば、ドレスでも問題ございません。せっかくの殿下からのお誘いを断ることなどあってはならないことです」 エレーナ先生からまさかの厳しいご指導が入った。 エレーナ先生め……。 私は、新たな味方を探すためにアズールさんとシャルちゃんをみた。「リョウ殿でしたら、ドレス姿でも容易に馬にも乗れるであります」 と、私が馬に乗れることを知ってるアズールさんがなぜか自慢げに語る。「まあ、乗馬されてるリョウ様、私も見たいです! きっと素敵です!」 と目をキラキラさせて喜んでいるシャルちゃん。 どうやら、ゲスリーとの乗馬は断れそうにない。 みんなの援護を得られなかった私は再びカイン様を見た。 カイン様は心なしか同情の視線を私に向けてくれている気がする。「そうですか……。では、せっかくですからヘンリー殿下のもとに参りますね。あ、でも、どのようにして向かえばよろしいでしょうか?」 と、馬車の扉のところまで身を乗り出した私は、外を見て首をかしげる。 馬車は走ってるし、カイン様の馬も走ってるし、近くに乗り手のいない馬もいないから飛び移れないし。 どこかで一度馬車を止めるのだろうか。 いぶかしむ私に「とりあえずは私の馬に」と言いながらカイン様が手を差し伸べてきて、恐る恐るその手に自分の手を乗せると少しだけ引っ張られた。「え……!?」「失礼」 というカイン様の声を聞いたときには、カイン様は私の脇の下に手を入れて持ち上げていた。 ふわっと宙に浮くような感覚にびっくりしている間に、気づけば私はカイン様の操る馬の上で横座りになっていた。 カイン様が片手で私が落ちないように支えていて、片方の手だけで馬を操縦している。 なにこれ、何の早業なの!? というか、近い! 私の左肩なんてカイン様に密着してるしで、すこぶる近い! というか、びっくりした。だっていきなりなんだもの! ドキドキして呼吸を整える間に、カイン様が「それでは」とか言って、私を乗せたまま華麗に馬車から離れていく。きっとゲスリーのもとに向かうのだろう。「カイン様、あんな風に持ち上げるのなら、一言声をかけてくださっても良かったのに。すっごくおどろきました。それに、私は馬に飛び乗るぐらいなら一人でできます」 やっと呼吸を整えた私が不満げに言ってカイン様を見上げると、カイン様が楽しそうに笑っていた。「リョウなら一人で飛び乗ってきそうだと思って、何も言わずに抱えたんだよ。できるとは言っても危ないことに変わりないし、そんなリョウの姿をみたら私の心臓がもたない」「突然あんなことされて、私の心臓の方が縮みあがりましたよ」「ごめん。でも、リョウを驚かせることができて、すこしいい気分だ。いつも私の方が驚いてばかりだから」 そう言って、くつくつと本当に楽しそうに笑うカイン様が素敵だから許すけれども! だって、何あの笑い方、素敵か! 素敵の化身か! カイン様はすごい。私は改めて実感したのだった。