うあ、と声を漏らしてしまう。 ドーム状の温室には青空が透けており、真夏の太陽光をたっぷり届けてくれる。となると温室らしく夏の暑さはマックスを更に超えてしまう。 ふむ、これは夏場を避けたほうが良かったか、などと辿り着いてから後悔する事になるとはね。「あっつーーい!」 なのにどうしてマリーは笑顔なのかな。 強い日差しのなか、ぱたぱたと顔をあおいでいるけれど太陽に負けないくらい輝かしい。それもそのはず、バナナワニ園という夢にまで見た――あ、夢の世界でも遊んでいるから夢は見ないか――ともかく、半妖精エルフ族である彼女の熱望していた施設なのだ。 周囲には親子連れやカップルの客が多い。いずれも半袖の軽装であり、僕らと同じように暑い暑いと口にし、玉のような汗をかいている。 うーん、いかにもお盆休みの余暇を過ごしている感じだねぇ。 もちろん、ただ暑いだけの施設ではない。 熱帯風のヤシに似た植物はあちこちに生え、くすんだ茶色の岩で飾られているのもアトラクション感があり面白い。漂う水辺の香りといい、どこか南国の絵本を読んでいる気さえする。「でもどこかゆるいよね。何でかな、このトボけたキャラクターのせいかな」 などと首元をゆるめながら、入口のマスコット看板をつつく。 ぽけっとした顔、ゆるい洋服を着て二足歩行をするワニの様子はどこかユーモアだ。しかしエルフさんにとっては突っ込みどころだったらしく、露な肩を僕の胸へ押しつけてくる。「まっ、あなたがそれを言うだなんて! うちで一番のゆるキャラというのに。カズヒホという名前がすべてを物語っているわ」 あれぇ、僕は名前から既にゆるかったのか。ただ、最近ではマリーのほうがゆるい気もするんだけれど。 ともかく、そのような南国風の場所なので、汗をかくのもさほど気にならないようだ。むしろ実際に肌で感じられるので臨場感も増すらしい。 なるほどと思うのは、どこか昭和の懐かしさを残していることかな。大人も楽しめる場所と聞くのは、そんな空気のおかげで童心へ戻れるのかもしれない。 味がある、という表現が近しいか。ただ綺麗な場所であるよりも、昭和からある施設らしい空気を残すことで歴史を匂わせてくれる。 などと園内を見回していると、手をぎゅっと握られた。見れば待ちきれなさそうな表情をする少女の瞳が待っている。「はやく、はやく、ワニを見ましょう!」「ふふ、そうしようか。向こうのほうにいるのかな、エルフさんを狙う恐ろしいワニは」 空いているほうの手でガブガブすると、くすぐったそうに首をすくめ、白い歯を見せてくれる。妖精のようだと常々思うけれど、やはり笑顔のときが一番可愛いな。「あら怖い。でも寝ぼすけな人も大好物かもしれないわ。だって簡単に食べれるでしょう?」 おや、そう言われてみると反論できないな。 手を引かれながら振り向くと、ウリドラ、そしてシャーリーも周囲を物珍しげに眺めつつ歩いてくる。どんな施設なのかまだ分かっていないようだけど……実際、目にしたほうが早いかな。 そういうわけで手を引かれるまま歩いてゆく事にする。 繋いだ手からは少女の高揚感が伝わってきて、くすぐったいような、頬が緩むような思いをさせられる。