慌ただしい日々第六章【聖戦士編】の開幕です。「マスター! あの太鼓どこやったんですか!」 トウエッドから取り寄せたあのおもちゃか。 確かでんでん太鼓っていったっけ? はて? 確か、さっきあそこに……――――あ。「今レオールが持ってる!」「は~いレオールちゃーん、ちょっとそれ貸してくださいね~」「だーぁ!」「そこを何とか! チャッピーに使うんですーぅ」「だ?」「そうですそうです。あの子のなんですよ~」 拝むように肉球を擦り合わせるポチ。 下手に出過ぎてる感はあるが、相手が未来の聖帝様ではそれも仕方ない。「あーぅ」「ありがとうございます! このお礼はマスターが必ず!」 この交渉の成功率は半分程だが、赤ん坊相手にこの成功率ならポチの能力は高いと言えるだろう。 なんたって、ポチズリー商店で培った経験があるからな。「おい! それはシロが返してやれよ!」「あーぅ?」「何レオールの真似してんだ! お前がやっても全然可愛くねぇんだよ!」「あー! マスターには私のプリチーさがわかってませんね!」「ったく、俺は忙しいんだよっ」 俺はそろそろと思い、レオンの布おむつを外し始める。「いやぁあああ!? おむつ外す時は私に言ってから外してくださいよ!」 途端に目を前脚で覆い隠し、視界を塞ぐポチ。「赤ん坊相手に何恥ずかしがってるんだっ! それよりシロ、あっちでチャッピーが寂しそうにしてるぞ! 母親なんだからしっかり面倒みてやれよ!」「んまー! 父親なんだったらこっちのお手伝いもして欲しいですよ! 馬鹿! は~いチャッピー? でんでん太鼓ですよ~。コロコロ~」「ぴよっ」 あの切り替えの早さは天獣故の……いや、ポチのままか。 まさか孔雀が紫死鳥になるとはな。 あの後何故孔雀が天獣になったか、理由を色々考えてみたが、結局寝付くまで答えは出なかった。 しかし、寝付いた途端、その理由が明らかになった。 俺が眠りながら情報を得られるのはただの一つだけ。 そう、あの爺さんだ。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆『ほっほっほっほ。この時代でも元気にやっとるようじゃな?』『現れたなクソ爺!』『現れましたね! 便爺!』 丁寧に言っても汚い言葉だな。『えらく嫌われたみたいだのう?』『当然だ! 何でこんな危なっかしい世界に送る必要があったんだ!?』『そうです! 今日はお茶無しですよ!』『座布団もだ!』 こうなる事を予測してなのか、爺さんは少し高めの場所から話しかけている。 まったく、見下すようにしやがって。 あれ? …………もしかして、これ浮いているのか?『よっこいしょ』 馬鹿な……宙で座り込んだぞこの爺さん!? 夢の中とはいえ、イメージで具現化するのは限界がある。 だが、それを軽く超えるようなこの行動はつまり…………魔法っ?『なら私も座ります!』とか喚いてるポチは気付いていないようだが、これはもしかして……――っ! あの爺さん、こっちを見て……一瞬笑った。 口元が一瞬ぼやけて俺の目に映ったのは確かだ。という事はこの正体がわからない顔の黒い影も……魔法! くそ、ここでヒントを出すとは、性格がねじ曲がってるな、この爺さん。『……さて、何が聞きたいかの? 三つの質問まで答えようではないか』『世界一美味しい食べ物は何ですか!?』『ばっ――!?』『遠く離れた南の地。かつて神と悪魔が争った土地で生まれた《神魔の実》というものが存在する。悪魔のような魅力にそれを求める者は後を絶たない。食べた者は天上に存在する神に出会うとさえ言われている。これで一つじゃな』『ありがとうございます!』 こ、このっ――『馬鹿たれ!』『アイタ!? 何するんですか!? 神魔の実、分けてあげませんよ!?』『そんなんどうだっていいわ! いつ現れるかもわからない爺さんに聞ける質問は三つ! お前はその一つをくだらない質問で潰したんだぞ!? わかってるのか!?』『くだらなくなんかありません! 味を追及する私にとって、これは重要案件ナンバー2に入ります!』『じゃあナンバー1って何だよ!』『マスターの安全に決まってるじゃないですか!! あっ!?』『くそ! 嬉しいんだよ! 馬鹿!』『んー! んーんーんー!』 恥ずかしいのはわかるが、塞いだ口を何とかしてから喋れよ。『いいえ! どういたしまして!』って言ってるみたいだがな。 とりあえずポチにはしばらく恥ずかしがっててもらおう。 黙っててもらわないと話が先に進まん。 さて、残り二つか……何の質問をするかによって聞き出せる情報量が変わってくる。 これは慎重に考えないとな。