だが、ロに出しては別のことを言う。「おいおい、ラスムス。お前、奥方にもそんな風に思ってるんじゃないか?」「は? いやいや、うちのは全然、そんな大した器量では…」「そうじゃない。苦労なんてしてないだろうって」「それは…もちろん。苦労なんてさせておりませんよこれでも長年、《角》の若頭を務め、いい暮らしをさせてやったと自負しております」「これだ」呆れたようにリネーアは苦笑とともに肩をすくめる。いい暮らしをさせれば苦労なんてしていないだろう、と。だが、たとえいい暮らしをしていても、誰かに愛されていなければ、必要とされていなければ、寂しいと、苦しいと感じるのが女という生き物だ。そして、そういう苦悩をこそ、愛するひとにわかってもらいたいものなのだ。「奥方にも奥方なりの苦労はあったろうし、お前のためにいろいろ尽くしてきたはずだ。たまにはそれをいたわってやれ」「は、はあ。今更そんな事を言うのはこ0ずかしいといいますか、あいつにしたところで奇妙に思うだけだと思うのですが…」