俺が思い出すように言うと、ポチがすぐに疑問を述べた。「誰が倒すんです? その顔は知ってる顔ですよ?」「……聖戦士が倒したって話だ」「へぇ。誰ですか、その奇特で残念な聖戦士は」「確か……ポーアって名前だ」「どこにいるんでしょうね」「さぁな。会った事ないからわかんないや」 ……………………………………………………。「嫌! 嫌ですよ! 私そんなのと戦えません!」「俺だって嫌だよ! ランクも知られてない奴との戦闘なんておっかなくて出来ねぇよ!」「そもそも炎龍一頭ですら手ごわいのにどうやって倒すんですかっ!」「知らねぇよ! 本物のポーアさんが現れてちょちょちょいって倒してくれるんだよ、きっと!」「ポーアはあなたでしょう!」「お前が名付けたんだよ!」「いい名前じゃないですか!」「そうですね! ありがとうございますぅ!」「どういたしましてぇ!」 夜に俺たち二人は、低レベルとはいえ、モンスターが闊歩する場所でギャーギャー喚き散らし、目に付くモンスターを吹き飛ばしていた。 そして、ポチが落ち着いた頃合いを見計らって、俺はひとつ咳払いをした。「……何です? ちょっと危うい感じですよ、マスター」 そんな顔してるのだろうか? だが、こればかりは話すと決めていた事だ。仕方ないかもしれないな。 これから話す事を重く受け止めたのか、ポチが俺と向かい合って座りこむ。倣って俺も座る。「えーっと……その、だな……」「…………」 さっさと話せと、ポチの目が少し怖い。「ポチは犬狼……だよな」「当然です! 誇り高い狼さんですよ!」 くそ、更に気まずくなるような言い方するじゃないか。「……その狼さんを……だな……」 口ごもった俺に、ポチは更に続けた。「ですが、それ以上にマスターの使い魔です! なんたって八百年もやってますからね!」「……あぁ、そうだったな」 ポチはこれから俺が言う言葉を知っていたのだろうか? これだけで、この言葉だけで俺の心が軽くなった。 だが、言葉に出来るかと言ったらそれは別の問題だ。 中途半端な心の軽さは俺に口を噤ませ、ポチの睨みを鋭くさせてしまった。 そして遂に痺れが切れるのだ。「マスター!」「はい」「マスターは私の種族の事について、何か提案をしようとしている。そうですね!?」「えぇ、全くその通りです」「何故黙るのですか! 何故私に命じないのですか! 使い魔契約が甘くなったとしても、主人の命令に使い魔が逆らえるものでもないでしょう!」「俺が……俺がそれを命じれると思ってるのかよ!」「思いませんよ! だから私がこう言ってるんです! 背中を押してるんです! いえ、押してあげてるんです!」 今の訂正は別にいらないだろう。 しかし有難い事でもある。ここは礼を言っておくべきか。「……わかった。ありがとう」「もっと感謝してください!」「あ、ありがとうございます!」「足りませんねぇ!」「ポチ様、いつも本当にありがとうございます!」「満足ですー!」