天網座戦、最終試合。 闘技場に現れた男は、スカしたバンドのギターみたいなやつだった。 黒髪に紫色のメッシュ。いかにも男子中学生が好きそうな髪型。 服装は真っ黒の革パン革ジャケだ。暑くないのかな? しかし、顔はかなりいい。そして若い。ゆえに、こんな「マジか」という恰好も一応は映えている。「よお、自演野郎」 向かい合って、軽く挨拶。 すると、プリンスは鋭い目を更に鋭くして俺を睨み、こう言った。「よぉー、パクリ野郎」 パクリ?「何が?」「お前、僕の松明、パクったろ」「僕の……松明……?」 下ネタか?「とぼけるなよムカつくなぁ。松明だよ。お前使ってただろ一つ前の試合で。自分で発見したとか馬鹿みたいな嘘つくんじゃねぇーぞ? あんなの自分で発見できるわけねぇーから」 ああ、松明。「いや、あれは俺が持参したものだ。ユカリに頼んで庭から松の木の枝を」「そういう意味じゃねぇーよ!!」 なんなんだこいつ。カリカリして。カルシウム不足か?「何が言いたいんだ?」「冬季の僕の試合を見て、松明戦法をパクったんだろって言ってんだよ!」 ……………………。 ほお。「松明を使う戦法は、プリンス君が最初に発見したと、そう言っているのか?」「僕以外に誰がいるんだよ。半年前、僕が初めて天網座戦で使ったんだ。僕が発明者だろーが常識的に考えて」「…………」「黙んなよ。なんか反論してみろよ。なぁおい」「……やればわかるか。本当にお前が発明したのかどうかは」「何言ってんの? まずは謝罪だろ? 馬鹿か? 死ねよ」 本当なら。 ああ、そんなに嬉しいことはないな。 世界一位をパクリ呼ばわりしたことは、水に流してやってもいい。「――互いに礼! 構え!」 号令に従い、武器を取り出す。 俺は変わらず、フロロカーボン16lb。 プリンスは、イヴと同じ蜘蛛糸か。「おい! まだ話は終わってねぇーぞ!」 ……プリンス。まるで子供のような男。 口を尖らせて声高に自分の正当性を主張し、築きあげた体裁を守ろうと必死だ。 自作自演のようなちょっとしたズルも、バレさえしなければ、己が一番になるためには辞さない徹底ぶり。 人に見えないところでこつこつと努力し、姿形を整えてカッコイイキャラクターを作り、なんとかして人気者になろうともがいている。 そして、この怒りっぷり。きっと昨日あの後お家に帰って顔真っ赤にして独りで発狂していたに違いない。 わかるぞ。 こいつは強い。 今までになく強い。 実に「ネトゲ向き」だ。 ただ……。「――始め!」 輝きが、足りない。