「な? よく言えば伝統的。悪く言えば、新しいものに否定的なんだ。そんな妖精たちが相手なんだ。『オリジナル魔法を開発したぜ』だなんて正直に言うよりは、『古くから言い伝えられている魔法受諾の儀式を行います』と言った方がいいだろ」「まあ……確かに抵抗は少ないでしょうね」 アマミはうなずいた。「だが、今は非常事態だ。保守だの伝統だのと言ってられねえ。俺たちと妖精全員の命運がかかっている。 だから、妖精たちには実験をやってもらう」「妖精王みたいにオリジナル魔法を開発させるんですか?」「さすがにそこまでは期待していねえさ。ゼロから数々の新魔法を生み出した妖精王はたぶん天才だしな。だが、ゼロからは無理でも、呪文の修復なら普通の妖精でもできる」「修復?」 青い目をぱちくりさせながら、アマミが疑問を口にする。「ああ。思い出せ。妖精王の魔法書に載っている呪文は誤字だらけだった。だから魔法の威力が弱くなっちまった。だろ?」「ええ、覚えています」「その誤字を修復させるのさ」「そんなことできるのですか?」「できる」 誤字があるとわかっているのなら、呪文を1文字ずつ変えて試せばいい。 たとえば、妖精王の本来の呪文が、こうだったとする。 アアアアアアアアア ところが誤字のせいで、魔法書にはこう書かれていたとする。 アアカアアサアアタ 誤字は全部で3か所だ。 どうすれば正しい呪文である『アアアアアアアアア』を見つけられるか? 簡単だ。とにかく呪文を1文字ずつ変えてみればいいのだ。 イアカアアサアアタ アウカアアサアアタ アアエアアサアアタ などなど、とにかく1文字ずつ色々と変えてみる。 そして、変えるたびに実験する。つまり1文字変えた魔法を試してみる。 威力が変わらないか、かえって弱くなっていたら失敗だ。 また別パターンを試す。 1000パターンも試さないうちに、 アアアアアサアアタ というように、3文字目の誤字『カ』を正しい字『ア』に変えるパターンにたどり着くだろう。 当然、誤字が1文字直っているから、呪文の威力は強くなる。 成功だ。 3文字目は『ア』が正解である。1文字修復完了だ。 これを延々と繰り返せば、魔法が1個修正できる。 後は、妖精王のすべての魔法に対して、同様の方法で修正するだけである。 200人の妖精全員でひたすらやれば、そんなに時間はかからないはずだ。「……すごいこと考えますねえ」「だが、これしかねえだろ?」「うーん……でも、ジュニッツさん。妖精たちって保守的で伝統的なんですよね? そんな伝統的な妖精たちが、偉大なる妖精王様の魔法を変える実験なんてやってくれますか? 妖精王の魔法書に誤字があることは言うつもりはないんでしょう?」「……なんでそう言える?」 俺の疑問に、アマミはこう答えた。「だって、そんなこと言ったら、書写の妖精が悪者になっちゃうじゃないですか。彼女はまだ仕事を引き継いで1年も経っていないのに、それは酷でしょう。ジュニッツさんが、そんなことをやるはずありませんよ」「……ふん!」 俺はただそれだけを言った。「で、実際どうするんです? 誤字のことは上手いことごまかすにしても、保守的な妖精たちに偉大な妖精王の魔法を変える実験をやってもらうのはハードルが高いですよ?」「なあに、そのための宗派変更さ」