そして紫水晶の瞳をしたエルフは覗きこんでくる。 二度寝しかけている僕の身体をゆさゆさと揺すり、それがまた揺りかごのようで心地よい。 ああ、これは僕の癖かもしれない。眠りにつこうとするとき、少女を抱きすくめてしまうのは。「あら、寝ぼけているのかしら。会社に遅刻してしまいますよー」 寝起きの温かくも柔らかい身体、そして耳元へぽそぽそ囁かれると少女の可愛らしさにやられそうになる。 ……とはいえ、残念ながら本日は平日だ。とても悲しい。 観念して起き上がると、黒髪の美女はベッド脇の窓を見上げていた。いつものようにどんよりとした雲模様であり、ネズミ色の梅雨空だ。「凄いでしょ、日本の梅雨は」「うーむ、雲が停滞しておるのう。とはいえ週末には回復するやもしれぬぞ。わしの勘じゃがな」 ほう、魔導竜の勘であれば、そこらの天気予報よりも信用できそうだ。となると今のうちレジャー施設のレストランを予約しておこうか。ひょっとしたら梅雨の切れ間のおかげで客足も鈍ってくれる……かもしれない。 ふむふむと一人で納得しながらキッチンへ向かう。いつものようにお米は炊けており、冷蔵庫で解凍していた食材を取り出しながら声をかける。「ふたりとも、今日は何をして過ごす予定なのかな?」「ええ、読書でも良いけれど、ウリドラは外に出たいでしょう。散歩でもしようかなと思っているわ」「そうじゃなあ、雨とはいえのんびり歩いてみたい。どこか良いところを知っておらぬか?」 ふむ、とお米をしゃもじで混ぜ、蒸らしながら考える。ああ、そういえば一条さんから幾つか散歩コースを聞いているな。「近所に清澄庭園という場所があってね、純和風の風景を楽しめると思うよ」 うん、このあたりの説明はスマホで見てもらいながらのほうが早いか。おいでおいでと招き寄せ、テーブルを囲んで3人で覗きこむ。「わあ、緑色の池。松が見事に映えるわねぇ。日本の緑はスッキリして色鮮やかだわ」「んーーっ、渋いのう。わしは派手なものばかりに目を向けておったが、最近は分かってきたぞ。空間を静に満たしてこそ動を楽しめる……要はそれっぽくて格好良いという事がのう」