生羅の単と袴 「すずし」は「涼し」の意味で、経糸・糸ともに精練していな い細い生糸を用いて粗く織った織物である。風通しがよく、も っぱら夏の単の装東に用いられたのでこの名がある。平安時代 の文学作品には、夏の女性の一般的な装東として生利の単に紅 の粉という組み合わせがよく登場し、絵画でも「源氏物語絵卷」 (夕霧)に、雲居雅のそうした姿が描かれている。肌が透けて見 えるこの生組姿は一見覧っぽいようであるが、「源氏物語」常夏 に、内大臣(頭中将)が自分の娘雲居雅に、生組の単姿でうた たねをしていたのを諭す場面があるように、あくまで私的な空 間だけで着られたものである。『枕章子」に「見ぐるしきもの」と して、やせて色の黒い人が生組の軍を着ている、とあるのは、い かにも清少納言らしい鋭い感性である。