たまらずに少女は小さく吹き出す。くつくつと笑い、それから笑みの形をした唇を差し出した。「もう、仕方のない人。さあ、早く奪って頂戴。そうしたら手を繋いで散歩をしましょう。でないと雪が溶けてしまいそう」 では失礼してと僕は囁き、拒めないのを良いことにエルフさんの背に腕を回す。触れた唇は柔らかく、お風呂あがりの香りが鼻をくすぐる。 華奢な腕から背中に抱きつかれ、もう少しという意味なのか唇を押し当てられた。 どうやらヤドリギの下でのキスは、結婚を約束したことになるらしい。この後の散歩のことを考えると、その言い伝えを教えられなかったけれど、僕の考えはずっと前から決めてある。 ふう、と離れてゆく唇は息を漏らし、視界には瞳を濡らすマリーが映る。たまらなそうに身震いをひとつし、それからコートの内側に抱きついてきた。「もう、やっぱり不意打ちはズルいわ。心の準備がまるで出来ないもの。拒まないのは構わないけれど、せめて1時間前に伝えてくれるかしら」「そんな事務作業みたいに……。ほらマリー、そういう決まりなんだから仕方ないんだよ」 柄にもなく、おとがいを指につまんで上向かせると「あっ」という声を少女は漏らす。密着した身体からは、とくんと心臓の音が伝わったたけれど、それは僕のものだったかもしれない。 それから互いに熱っぽい息を吐くと、互いに笑みをこぼす。クリスマスに雪が降るなんて、ちょっとした奇跡だからね。 もちろん青森でなら当たり前だし、むしろ「十数年ぶりにクリスマスに雪が無い!」なんて事がニュースになったりもするけれど。そのあたりは東京と真逆だね。 がちゃりと玄関を開くと、ようやく僕も理解をしたよ。火とかげ君のおかげで部屋は暖かく、つい防寒具を油断してしまうマリーの気持ちを。「行きましょう、今なら下の道も真っ白だわ。私たちだけの足跡を残せそうよ」 そう振り返りながら言うマリーは、見とれてしまうほどの良い笑顔をしていた。