さて、あれからどれだけの時間が経っただろうか。 もう陽が落ちて、光源魔法すら使いたくなる頃合だ。 岩の扉の存在を確かめた俺たちは、一度扉を閉じ、外での待機を選択した。 隠し通路とは言っても城内だ。サガンに会えたとしても、流石に侵入者と話す……という訳にはいかないだろう。「うぅ……冷えてきたなー」「まだ春先ですからね~。火を焚いたらどうです?」「んー、でも、あの岩から出て来た時、焚き火をしている人間がいたら警戒しないか?」「逆ですよマスター。暗闇の中から『こんばんは』とか言って登場した方が警戒されます」 確かにその通りだ。 そもそもサガンの登場を待ってる時点で不審者なのにな。シチュエーションが完全に悪いのは仕方ないにしても、少しは緩和しないとだな。 ………………あれ?「どうしたんです、マスター? 早くしないと出てきちゃうかもしれませんよ?」「……大変だポチ」「どうしたんです?」「焚き木が…………ない!」「えぇ!? ストアルームに入ってないんですか!?」「そんなものソドムの街の維持に使っちまったよ!」「どうするんですか! ここら辺には燃やすものなんてありませんよ!?」「くそ……! 仕方ないな!」 そう言って俺はポチの前にいって腰を下ろした。「おぉ! 何か手でも!? ……ん? なんですマスター? この手は?」「いや、お前のスカーフがいい感じに燃えそうだと思ってな? ――って、痛ぇ!? 何しやがる犬ッコロ!」「どうしたら私のトレードマークを燃やせるんですか! それだったらマスターのそのマントの方がよく燃えそうですよ! ほら、それ使いましょう!」「どうしたら俺のトレードマークを燃やせるんだよ! ポチの毛皮の方がいいんじゃないか!?」「それは香ばしい匂いが漂ってきそうですね! ですが駄目です!」 ちっ。「そなたたち」「「あ゛ぁん!?」」 睨み合っていた俺たちが声の方へ振り向いた時、俺たちの視線はその男よりも、その男の後方へ向けられた。「おい……」「何ですマスター……」「何で岩の扉開いてるんだよ」「誰かが開けたからだと思います」「誰かって誰だよ……」「そりゃあ勿論……」 俺たちの視線が目の前に移っていく。 男だ。 無精髭が目立つ男だ。 茶色いウェーブのかかった長髪の男だ。 水色の服を着ているが、その服には銀糸や金糸が織り込まれ高級感が溢れている。「そなたたち何者だ?」 目を細めて俺たちを見る男。 ふむ、どこか威厳のある風貌だ。 じとっと見つめられる空気に耐えられなくなった俺とポチは、二人して男に背を向け小声で話し合いを始めた。「おい、岩が動く音、聞こえたか?」「全く聞こえませんでしたっ」「よし、この事で罪を擦り付け合うのはよそう」「いいでしょう。トロピカル猫まんま四日で手を打ちましょう」「俺も魔法実験四回分で手を打とう」「「うん」」 俺とポチはそう言い合って握手をかわす。「ところであれ誰だ?」「サガンさんじゃないでしょうか?」「どうだろうな……」「『人に名前を尋ねる時はまず自分から』とか言ってみます?」「戦魔帝かもしれない相手だぞ? 流石にそんなに偉そうな事言えないってっ」「じゃあ何て言うんですかっ」「うーん、本名はまずいような気がするな? かといってポーアとシロも違うような……」「うーん……」 俺たちが悩んでいると、後ろからスンという鼻息が聞こえた。「不審者……という事でいいかね?」 そう言って男は腰に納めていた長剣を引き抜いた。 なるほど、これも物凄い装飾だ。イツキが見たら「うへへへへ」とか言いながら涎でも出そうなレベルだな。「ポ、ポッチー仮面参上ですっ!」 とかふざけた事を言いながら、ポチがどこからか出したサングラスを掛けてポーズをとった。 慌てていたのかサングラスが上下逆さまだ。 あれ? 何故か身体が勝手に……!「レ、レオール仮面参上っ!