もし《銀将抜刀術》でも発動してきていれば、そこで「おしまい」だった。《桂馬抜刀術》と違い、《香車抜刀術》ならば移動距離も抜刀時間も短い、ゆえに《角行抜刀術》での対応が間に合うのだ。 逆にスキルを発動していなければ、俺の《角行抜刀術》に対応する形で《金将抜刀術》を発動できる。そうなるとカウンターが炸裂し、終わるのは俺の方だろう。 俺は準備していた《角行抜刀術》をキャンセルし、再び間合いをとって納刀した。「冷や汗をかいたわ」「大丈夫だ、次で終わる。そしたら風呂にでも入って温まれ」「……減らず口を」 仕切り直して、もう一度。 アザミの弱点は判明した。 彼女は、鈍い。 ……惜しいな。だがこればかりは天性のものだ、仕方がない。 鋭く繊細で速さのある弁才流とは、確かに相性が悪いといえる。マサムネがアザミを弱いと言ったワケがわかった。 しかし有利な状況とはいえ、よく《角行抜刀術》の反撃を見抜いたな。そこは賞賛に値する。 いいぞ、気分が乗ってきた。「サービスだ。一つだけ見せてやる」 真の素早さとは、スピードとは何かを。 皆、勘違いしているのだ。 単に、もっともっと刀を早く動かせばいいと思い込んでいる。 それでは駄目だ。どうしても限界がある。 その先を目指す工夫こそ、世界ランカーに必要とされる技術。 究極の速さとは、工夫。如何に速く見せるかの演出。「行くぞ」 俺は《飛車抜刀術》を準備しながら、緩やかに間合いを詰める。「!!」 相手が対応の初動を見せた瞬間、すぐさまスキルキャンセル、姿勢を低くしてくるりと横方向に一回転した。 仕組みは単純。緩急をつけ、スキル発動の瞬間を背中で隠す。 繰り出すスキルは、なんの変哲もない、溜めなしの《銀将抜刀術》。 それだけだ。 たった、それだけ。 …………だが。「え!?」 《飛車抜刀術》のゆるやかな準備を見た直後、いきなり見えない所から素早く抜刀されると――こうなる。 アザミの《金将抜刀術》発動は間に合わない。本来なら、間に合って然るべきタイミングにもかかわらず。 ただの《銀将抜刀術》が、とんでもない速さに見えてしまうのである。 不思議なものだな。ほんの少しの簡単な工夫で、こうも結果が変わってしまう。 だからこそ面白い。人と人との勝負というものは。「――それまで!」 アカネコの号令によって、試合は終わった。 アザミはまだ動けない。寸止めされた刀の切っ先が、首元に突きつけられているから。「お前は受けに自信があるようだが、反射神経が鈍いから、受け続ける戦い方はやめた方がいい。中盤で攻めに転じるべきだ。もしくは、状況判断能力に長けている強みを活かして乱戦に持ち込めば良い線行きそうだな」 俺は刀を下げながら、アザミにアドバイスをする。 それを静かに聞いていたアザミは、俺が言い終わるとゆっくり口を開いた。「吉祥流を捨てろ、ということ?」 ん? どういうことだろうか。「吉祥流は受け続ける型なのか?」「ええ。乱戦なんて以ての外。吉祥流の極意は、“後の先”を取り、美しく勝つことよ」「へぇ」 よくわからん“こだわり”があるんだな。「まあいいけどさ。だったらお前、才能ないよ。向いてない。やめた方がいい」「……ッ!!」「もっと上を目指せんのにあーだこーだ言う意味がわからん。そもそもお前、なんのために抜刀術やってんの? 好きだからじゃないのか?」 沈黙。