しかしこちらの姿を見て、驚かれていたのか。 ふむ、どうやら多少なりとも僕は大人っぽく見られているらしい。 だけど年齢で表すなら比べようもないほどシャーリー、それに後部座席にいるウリドラは高齢――と言うのは失礼か――人生の大先輩と言える。 と、バックミラー越しに覗いてみると、眼鏡姿の彼女は小説に瞳を落としていた。どうやら図書館に行ってからというもの読書の趣味を持ち始めたらしい。 彼女自身、古代から生き続けているとは思えないほど年齢不詳なんだけどね。 その黒曜石じみた瞳から、ちらりと見上げられた。「とっくに忘れておるようじゃが、おぬしはマリアーベルよりもずっと年が下なんじゃぞ」「も、もちろん覚えているよ……ときどき忘れてしまうけど」 じーっと疑わしげな瞳に負けて、思わず本音を漏らしてしまう。 いたたまれなくなった僕は、この話はおしまい!とばかりにエンジンをかけ、入れっぱなしだった音楽CDを再生する。 テンポの良い音楽と、シックな女性ヴォーカル、そして青空には羊が群れたような雲が広がっている。 このような休日らしい空気であれば、自然と会話は流れてくれる――などということはなく、愉快そうに二人から笑われながら、車はゆっくりと駐車場から出発した。 いや、年下は大変だねぇ。絶対に追い抜けないんだもん。 わずかにシャーリーが窓を開くと、秋らしい心地よい風が流れ込んでくる。どうやらボタン操作にも慣れてきたようだ。 流れ込んでくる甘い香りは、この時期だけに楽しめるキンモクセイだろうか。形の良い鼻でくんくんと匂いを嗅ぎ、その花を追ってか青空色の瞳は後方へと流れてゆく。「今のはキンモクセイだよ。どうやらシャーリーは、この世界の植物を気に入ったようだね」 そう話しかけると、彼女は唇を動かして「キンモクセイ」という言葉を繰り返す。 瞬きをする瞳を見るに、どうやら興味を覚えているらしい。だったら大人として手を引いてやり、好奇心を満たしてあげる必要がある。まあこの際だ、実年齢のことは忘れておこうよ。