クリュスが素っ頓狂な声をあげる。 無能でごめんね。でも、あの高名な《魔杖》のメンバーにそんな秘密組織の一員が紛れ込んでいるなんて普通は思わない。それに、ケチャチャッカもとても怪しげだったのだ。あんな怪しげな男が本当に悪人だなんて誰が予想できようか。 ついでに、僕の連れてきたメンバーをそのまま受け入れたフランツさんにも問題はあるのではないだろうか。 表に出さずに心の中で責任転嫁をしている僕に、陛下が確認してくる。「ふむ。クライ・アンドリヒ。貴様の見立てでは《深淵火滅》は狐の一員だと思うか?」「いえ。思いません」 考えるまでもない。即答する僕に、陛下が目を見開く。「理由を言えるか?」「彼女が狐だったら暗殺なんてしないでしょう」 《深淵火滅》は怒れる火竜のような婆さんなのだ。彼女が何かを成そうとしたのならば正面から燃やし尽くす手を選ぶ。 僕の言葉に、陛下が眉を顰める。しばらく何事か考えていたが、やがて大きく頷いた。「……知らなかったのならば、やむを得んな」「……御心のままに」 しばらくの沈黙の後、出てきた重々しい言葉に、フランツさんが押し殺したような声で応える。 流れがかわった。クリュスが目を丸くする。僕はなぜだか無性に吐きたい気分になった。 フランツさんが口を開いた。その表情は今の状況に納得していなかったが、異を唱える気はないらしい。彼の忠誠心は全く立派だ。