「字が読めるのか?」「ああ、これでもアストランティアで役人をやっていたんだ」「なんで役人が、こんな辺鄙へんぴな漁村――いやすまん」「まぁ確かに辺鄙へんぴだな。理由はあんたと同じだよ」「ははぁ――同じ街落ちした、よしみだ。毛布を買ってくれるなら、その本を付けてやるが」「良いのか? よし! 買った。金は明日持ってくるから、その時に毛布をくれ」 高価な買い物を決断したように、男は手を打った。「解った」 取引成立だ。元役人だけあって、話が常識に沿って進むのが良い。トラブルにならなくて良かった。 田舎から一歩も出たことがない人間だと、妙に排他的だったり、地方独特の偏見に凝り固まってたりするからなぁ。 そういう俺の思考も偏見なのかもしれないが。 後ろにいたサビ色の獣人がミャレーに色目を使っているのだが、彼女は手で追い払うような、つれない仕草をしている。 男達と別れ舟が離れて行くのを見届けると、家の中に入った。 カモフラージュネットを掛けた太陽電池パネルには、何やら変な顔をしていたが質問はされなかった。 擬装の効果は、それなりにあるようだ。「大丈夫だった?」 アネモネが心配そうに話しかけてきた。「ああ、近所の村の人達だったよ。悪い人が越してきたりしたら困るから、見にきたらしい」「失礼しちゃうにゃ! こっちには森猫がいるのににゃ」「普通の人間達に森猫の加護は通じないだろう。それにしても獣人の男に冷たすぎだろ? 同じ種族じゃないか」「獣人の男はもう懲り懲りだにゃ!」 ミャレーは口をへの字に結ぶと、腰に手を当てて尻尾をブンブン振っている。 イライラすると、この尻尾の動きらしい――貧乏揺すりみたいなものか?「ニャケロ達は、そんなに悪い奴等とは思わなかったが……」「酒を飲まなきゃ我慢できるけど、酒を飲まない獣人の男はいないからにゃ」 彼等が酒を飲む度にやらかす不始末の尻ぬぐいに嫌気が差したのだろう。俺と一緒に河原で飲んでいた時も、川で溺れたりしてたからな。