新魔法完成! キャサリンとジェイコブがブルーツと別れ、広間に戻った後、時計の短針は一周回った。 昼間だというのに、誰もが憔悴しぐったりと倒れる中、アズリーだけは黙々と筆を握っていた。「……あの人、おかしいよ」 バルンが寝転がりながらアズリーを皮肉る。「こ、この部屋臭いですぅうう……」 天井を見上げながらアミルが言った。「アミル、意識しちゃうからそれやめて……」 ナターシャも気力で自分を支えているが、ついに畳の上に突っ伏してしまう。 そんな中、魔法教室の廊下から聞こえてくる小さな足音が一つ。 バタンと襖が開けられ、現れたのは、ツンとした表情のアイリーン。「……馬鹿なの? あなたたち?」 皆何も答えられない。アイリーンの馬鹿呼ばわりに、反論する事は許されないのだ。 何故なら――、「だからあれ程言ったでしょう! アズリーに付いて行ける人間なんてこの世の中にほとんど……いえ、いないと言ってもいいわ! それをムキになって残るんだから! 『適度に休憩する事』って言ったでしょう!」 そう、彼らはアズリーの熱意に負けじとここに残ったのだ。 休憩をとったのは、アズリーをよく知るウォレン、アイリーン、そして大学の学生をベイラネーアに残して来たドラガンとテンガロンだけだった。「まさかここまでとは思わなかったので……」 仰向けになっているラッセルが疲れた声で言った。「休んだ方が効率の良い時もあるのよ。ま、アイツ以外ね」 アイリーンが未だ紙と睨めっこをするアズリーに注視する。「レデュケイト・マジックポイントはそもそも日常的に発散される魔力の動きを活性化させたもの。ならば、その日常を壊す事が出来れば? 周囲の環境を壊す事で魔力の動きも活発化せざるを得ないんじゃないか? この魔法の内側に周囲からの圧力を掛ける公式を混ぜる? そうすると魔力消化効率はおよそ五倍……いけるな。これに改良した加速魔陣の魔術を組み込む。ルシファーに直接叩き込むのであれば重ね掛けは不要。俺が一撃でもルシファーに叩き込めれば、後はその魔法陣に魔力を込めるだけ。…………どうやって?」 アズリーの思考が止まったところで、アイリーンがそれを助けるために声を掛ける。「魔法陣自体に集魔の公式を入れておけばいいんじゃない?」「それです!」 再びアズリーの筆が進む。「威力は十分。これでルシファーはこの魔法の存在に気付く事はない。けど集魔をしたところで、発動はやはり手動になる。って事はそれを俺がやるのか? いや、無理だ。瞬間転移魔法を使ってかわしまくっても、ルシファーの攻撃を防ぎながらこの高難度の魔法を宙図してたら、それこそ防がれてしまう。ルシファーに気付かせずに魔法陣を叩き込む事が出来ても、手動発動の時点で気付かれる…………どうすれば?」 またアズリーの思考が止まる。「それを自動発動には出来ないの?」 アイリーンが聞く。「可能な限りの情報量を魔法陣に込めたので、自動発動公式を組み込むのは無理でした。手動にすればいいと思ったんですが、ちょっと無理でしたかね……」「一つだけ手がありますよ」 アイリーンの後ろから現れたウォレン。「というと?」「手動発動ではなく、認証型発動にすればいいのです。計算したところ認証型の情報量と手動発動公式の情報量は同程度ですから。ただ――」「――おぉ! なら、俺以外の人間でも出来る!」 ウォレンの言葉の途中で、アズリーが筆を走らせるも、アイリーンの顔は渋いままだ。「アナタでさえ発動させるのが難しい超高難度の宙図よ? 一体誰が出来るって言うのよ?」 ジトっとしたアイリーンの目を受け、アズリーの目が点になる。