「あんた、魔導師だったのか?」「ああ、その事は他言無用でな」「無論、俺達の恩人だ。約束する」 立ち話も何なので、近くの食堂に入った。そこは木造の2階建てで古色蒼然だが、中々に味わい深く歴史がありそうな佇たたずまいをしている。 子供達とミャレーは別のテーブルでミルクを飲む――ミルクは1杯小角銅貨5枚(500円)と結構高い。 そして俺達は男同士で話をする事にした。クロトンはエールを飲んでいるが、俺はミルクだ。 エールってのはビールみたいな物だが、はっきり言って不味く――元世界のビールを知っている人間には飲めた代物じゃない。 たが誤解があるようだが、エール自体は不味くないし、ビールに比べて劣っているわけでもない。元世界のような美味しく作る技術が無いだけなのだ。「なんだって、あんな連中に囲まれていたんだ? 彼奴等の話じゃ知り合い風だったぞ?」「ああ――役人をやっていた時にな、小遣い稼ぎに奴等に情報を売ったり、手心を加えたりと色々とやっていたんだ」「それを逆手に取って強請ゆすりでも始まったか?」「そうなんだ……」「ああいう連中が、良い顔をしているのは最初だけさ。それで街落ちして、あんな所に住んでいたのか?」「そんなところさ」「まぁ、俺もな――商人の揉め事ってのは嘘で、さっきみたいな魔法の件で貴族に追われている」「そりゃ、凄い魔法持ちとくれば、貴族は放って置かないからな。あんた逃げて正解だよ。あんな子供がいれば、人質に取られる事もある」「そりゃ、あんたも同じだろう? どこか遠くに逃げた方が良いんじゃないのか? 女房子供に危険が迫るぞ? それとも、まだ街に未練があるのか?」「……」 返事がないって事は、まだ心残りがあるのだろう。 彼の話では、昔の伝を使って悪事の片棒を担がせようと、奴等が接触してきたらしい。 ああいう連中は、しゃぶり尽すまで止めないからな。 だが、これ以上は彼の問題だ。俺がどうこう言う話ではない。 子供達の方を見ると、アネモネとクロトンの娘は、すっかり意気投合してしまったらしい。 歳が近い子供が近くにいなかったからな。アネモネの初めての友達かもしれん。「あの本ね~、私も作るのお手伝したんだよ」「え~本当に? 新しい本を作る時にマリーも手伝って良い?」「うん!」 返事をしたアネモネが俺の所へ、とことことやって来た。