――ミーヤ。どうして君が。 ミーヤ・ライン。俺のたった一人の幼馴染。 同じ村で生まれて、15歳まで共に過ごした初恋の人。 二人で一流の冒険者になると誓いを立てた。 俺に冒険者を目指すきっかけをくれた人物だ。 一緒にチャングズの村を出て、贈与の儀を受けて。 自分とは対照的に、規格外に恵まれたスキルを得て。 それでも俺を見捨てないで、二人で誓い合った夢を叶えようしてくれて。 そして、俺が彼女を裏切って。傷つけて。 最後には別れを告げられた。 それだけだ。俺達の関係は。そこで全部終わった。 もう一生顔を合わせることはない。合わせる顔がない。 そう思っていた。 だけど、偶然とは残酷なものだ。 出会ってはいけないはずの二人が、引き合わされてしまった。 逃げなくちゃ。そう判断した。 ロズリアの手を乱暴に掴んで、引く。「いきなりどうしたんですか、ノートくん。名前呼ばれてますよ」 彼女の放った言葉に立ち止まる。 これじゃあ、もう逃げるわけにはいかない。 ロズリアは俺の名前を呼んでしまった。 これで俺がノート・アスロンだということが確定してしまった。 彼女が黙って俺についてきてくれれば、逃げても人違いということでミーヤを納得させられたかもしれない。 俺が足を止めたことで、一拍分の隙ができた。 その隙間を縫うように透き通った声が響く。「やっぱりノートだよね。わたし、ミーヤだよ。もしかして忘れたの?」 ――忘れるわけがないじゃないか。 出かかった言葉を喉の奥で飲み込む。 この段階まで来たら、もうしらばっくれることは不可能だ。 彼女と面と向かって話をするしかない。 幸か不幸か、ミーヤは俺と会話をするつもりはあるようだ。 別れ方も別れ方だったので、明確な拒絶をされる可能性だってあった。 見て見ぬふりだって、しようと思えばできたはずだ。 しかし、意外なことに彼女は普通に話しかけてきた。 俺がミーヤにしたことは、決して許されるようなものじゃない。 ミーヤの才能に嫉妬し、ふてくされ、一流冒険者になるという二人の夢を勝手に諦めて。 でも、表面上はいい顔をして。彼女の優しさに付け込んで。 彼女が自分の力のみで手に入れた手柄を、受け取り続けた。 そして、いざ自分の怠惰な感情を咎められたら。 逆ギレして、たくさんの罵声を浴びせて。 我ながら、本当に最低な人間だと思う。 思い出す度に自分が嫌いになる。 彼女だって、俺のことを嫌っているはずだ。 こうしている最中だって、話しかけたことを後悔しているかもしれない。 今更謝ったって、もう遅い。彼女は決して許してくれないだろう。 俺はミーヤに深く関わるべきではないのだ。 だから、久しぶりの再会に似つかわしくない、ありきたりな返事を選んだ。「久しぶり。ミーヤだよね?」「そうだよ。ちゃんと反応してよね」「ごめんごめん」「てっきり、ノートがわたしのこと忘れちゃったのかと思っちゃったじゃん」「忘れてない、忘れてない。ただ髪型が変わっていたから、一瞬気づかなかったんだよ」 肩ほどで切り揃えられた、細くてさらさらとした金髪を指さした。 昔の三つ編みとはだいぶ印象が違っている。 もちろん、自分が言ったのはただの方便である。 無視して立ち去ろうとしたことを誤魔化すための言い訳だ。 たとえ髪型が変わろうとも、俺がミーヤを認識できないわけがない。「そういえば髪切ってから会うのは初めてだったね。どう? 変じゃない?」 ミーヤは一歩踏み出し、上目遣いで俺の目を覗き込んできた。 瞳を覗き込んでくる癖は昔からのものだ。 髪型は変わっても、中身は全然変わっていないらしい。 瞳に映る自分の顔を眺めながら、俺は答えた。「すごく似合っていると思うよ」「そう? わたしはこの髪型、あまり気に入ってないんだけどね……」「なんでだよ。かわいいじゃん」「昔よりいい? なら、よかった」 ミーヤが引き攣った笑いを浮かべながら、毛先を人差し指に巻く。 話を切り上げるタイミングを見失ってしまった。 おそらく、ミーヤも同じように考えているのだろう。 彼女のためにも、ここは強引に話を切り上げ、この場を去ることにするか│。 そう決意して口を開きかけるも、脇から声が割って入る。「ノートくん。わたくしという女がいながら、女の子を口説かないでくださいよ」 ――頼むから空気読んでくれよ……。