俺の隣までやってきたロッディが平謝りしているが、それに応える余裕もない。
彼らを止めるには再起不能にするしかないということか。
そして、それだけではなく最大の難関、フォールの戦闘参加表明。
今ですら、101たちに翻弄されているというのに、ここでの参戦は絶体絶命なんて生温い言葉では表現できない。
この状況を覆すことは……不可能。
絶望の二文字が頭を過ぎる。
「まさに万策が尽きたというところかな。いやいや、二人ともよくやったよ。ここまで抵抗したのだから、そこは残念がらずに誇っていい。大いに誇るべきところだ!」
勝ちを確信しているのだろう。圧倒的強者が余裕を見せて相手を見下す。そんな笑みだ。
だが俺は――
「まだ諦める気はない」
足掻く――
「勝ち目はないのだよ。それぐらいは理解できるだろう」
「普通はな」
生き延びる――
「泥をすすっても、五体が引き裂かれようとも、生きてみせる」
もう一度、桜に会う――
「立派だねぇ。でもね、土屋君。人は想いだけでどうにもならないのだよ。現実が求める物は力だっ!」
フォールが叫ぶ。
それだけで、俺は宙を舞い地面を何度も転がり続ける。
このまま距離を取ればいいと、抵抗もせずにいた俺の体が唐突に止まった。
「がはっ! ごほごほっ」
背中に強い衝撃を受け、咳き込み、頭がぼやける。
敵が回り込んだのかと思ったのだが、そこは扉だった。
入り口から正反対の場所にある扉。それがこんな近くに……必死で気づいてなかったが、戦いながらこんな場所にまで移動していたのか。
駄目だとはわかっているが扉に触れてみる。びくともしない。
「土屋さん!」
駆け込んできたロッディから事前に渡していた傷薬の一つを、口に流し込まれる。
痛みが消え、意識もハッキリとしてきたが……足掻く時間が少し増えたに過ぎないのか。
「意気込みは立派なのだけど、もう諦めないかい。少々見苦しいよ」
「兄さん。それは違う。兄さんは逆境に負けない土屋さんが羨ましいだけ! 負の感情に負けて見失った自分と照らし合わせて、困惑しているのよ!」
「だ、黙れ……妹であろうとその暴言は許さんぞっ! もういい、お前ら手加減なしだ。生きてさえいればいい。手足の一、二本千切っても構わん!」
そう命令された101たちが、一歩一歩こちらに歩を進める。
傷薬のおかげでまだ動ける。俺を庇うようにして構えていたロッディの肩に手を置き、横に並ぶ。
ここが正念場だ。死の一歩手前と表現した方が正しいか。
いくしか、やるしかない。できる、できないではない……やるんだ。
三人が姿勢を低くした、あれは跳び込もうとする前の動作。フォールは怒りを鎮めようとしているようで、こちらを睨みつけてはいるが動く気はない。
相手が腕をご所望なら、命令に従順な彼らはそこを狙ってくるだろう。ならば、腕一本犠牲にして一人だけでも、何とか葬る。
瞬きすらせずに三人の動きを凝視していた。全身に力が漲っている、くるっ!
姿がぶれ、一瞬にして間合いが縮まるが俺はそれを予期していたので、相手が腕を狙うように左腕を突き出し、そこに襲い掛かる敵を頭で描き、右手に握りしめたミスリルの鎌を振り上げようとした――が、その腕は上がらなかった。
「何っ!?」
視線を腕に落とすと右腕を地面から伸びた黒い手が掴んでいる。
どういう、こと、はっ、フォールか!?
フォールに目を向けるとニヤリと口元を歪め、嘲るように笑うやつと目が合った。
もう、間に合わない――
俺は左腕に喰らいつこうとする赤髪の咢を眺めながら――
「ゴヒュギャッ!」
硬い物同士がぶつかった激突音が響いたかと思うと、赤髪と筋肉ダルマとゴスロリが、体をくの字に折り曲げ後方へと吹き飛んでいる姿が目に映った。
「お、これって絶体絶命のピンチに現れたヒーローっぽくないか! さすが、俺! 完璧な登場シーンだな!」
この声は……いや、あり得ない。彼がここにいるわけがない。
「うるさい。寝言が言えるように、ここで昏倒させる」
特定の人物に対してだけ口が悪い少女の声がする。
何度も聞き慣れた、この二人のやり取り……聞き間違えようがない……。
「土屋ー! 寂しかったよーーーっ!」
俺の首筋に飛び付いてきたのは手の平サイズの緑色をした人型。こんなには小さくなかったがその姿形に見覚えがあり過ぎる。
「何で、皆が……」
俺が振り返った先には忘れようもない、懐かしい面々。権蔵、サウワ、小さくなったミトコンドリアの姿があった。