沈黙。 ラズはかける言葉が見つからないようだ。 そのはずである。たったの数ヶ月前、ラズがカラメリアを調合していなければ、ソブラはこのようなことにならないで済んだのだ。「まあ、最近はマシになりましたけどね。どう足掻いたって吸えないってわかってるんで、諦めがつくんですよ。つまりカラメリアを絶つためには環境が大事だと言えます。そして何より周囲の協力と、曲がることのない信念ですかね」「信念……?」「生きがいって言うんでしょうか。ファーステストの料理長としての誇りだ。セカンド様に、ファーステストの皆に、料理を作る。今俺を支えているのはそれだけですよ。本当に、それだけ。だから絶対に裏切れない。カラメリアを吸うってことは、俺という人間の死を意味するんです」 死んでまで吸う価値はない、と。 そう考えられるってのは、意思が強いな。常に「バレなきゃ問題ない」という誘惑と戦わなければならない。ソブラはその波を乗り越えてきたのだろう。「どうしたら楽になるんやろか……?」 ラズは申し訳なさそうな顔で言った。自責の念を感じているようだ。 自分を責める必要はないと、俺はそう思うが、力になれるならなってやってほしい。残念ながら俺には薬の知識なんてこれっぽっちもないから。「……できることなら忘れたい」 ソブラはぽつりと呟いた。 無理だ。素人の俺でもわかる。身体的苦痛は薬である程度取り除けても、記憶ばかりは不可能だろう。 それをソブラもわかっているのか、何処か遠くを見つめるその目には薄らと諦念が滲んでいた。「……おおきに。ほな、うちらはこれで」「こちらこそどうも。随分と気が紛れましたよ。セカンド様も、ありがとうございました。わざわざ足を運んでいただけて嬉しかったです」「ああ。まあ、俺の家だけどねここ」「ははは、そうですね」 俺とソブラは、笑顔で別れる。ラズだけは上手く笑えていなかった。