「マリーが新しい絵本が欲しいんだって! ケンイチは新しい本は作らないの?」「そうか、それじゃ作るか」「やったぁ! マリー、新しい本を作ってくれるって!」 アネモネは喜び勇んでテーブルへ戻り、彼女と話し込んでいる。「あの本は、あんたが作ったのか?」「まぁな。本当は絵描きなんだよ」 クロトンは黙ってエールを飲んでいるのだが……。「あんな可愛い娘と女房――娘さんはあんたに似ていないから、奥さん似なんだろ? それじゃ美人のはずだ。それだけのお宝抱えて、この街に何の未練があるって言うんだ?」「……その……好きな女がいてな」「んあ? 女房以外にか?」「ああ……」「こいつは呆れたな。どうせ高嶺の花とかで、手の出しようもない女なんだろ?」「馬鹿な奴だと笑ってくれ……」 エールのカップを両掌で抱え、下を向くクロトンではあるが。 なんとまぁ、こいつには呆れたわ。娘は良い子なのになぁ……。 食堂を出て彼等と別れる。彼等は普通に歩きなので、今から帰らないとサンタンカの村に着く前に暗くなってしまう。 俺たちみたいな自転車やバイクがあるならともかく、徒歩で魔物に出会ったりしたら逃げられないからな。 クロトンの娘、マリーが手を振っている。アネモネと遊ぶ約束をしたようだ。 漁村のサンタンカは橋の架かっていない川の向こうにあるが、川幅3mぐらいの浅い川なのだが、子供だけでは少々危険だな。 行き来するなら注意しないと。 そして日が傾く頃、冒険者ギルドへ向かい出来上がった肉を受け取ると、俺たちも帰路へ着く事にした。 門を出て街道を歩き森へ到着すると、木々の間は既に青から黒に変わりつつある。 アイテムBOXからオフロードバイクを取り出すと、エンジンを掛けてヘッドライトを点けた。 ミャレーはこの暗さでも十分に見えるらしいからな。 ヘルメットを被ったアネモネを後ろに乗せると、家へ向かって走りだした。 右手に崖を見つつ走れば自然に到着するのだから、暗くても迷う事もない。「その明かりは明るいにゃ~!」「目がくらむから見ないほうが良いぞ」 彼女の話では魔物の気配はないと言う。 まぁ、30分もすれば家に到着するんだ。それぐらいは何とかなるだろう――と思っていたのだが。「わわわ! こいつはちょっと失敗したな!」 森の中をヘッドライトを点けて走っているので、意外と虫が集まってくるのだ。 こいつは誤算だ。後で電球をLEDに交換しよう。 ヘッドライト用のハロゲン球を、そのまま交換出来るタイプのLED球があったはずだ。 虫に追われながらも、森を抜けて無事に到着。 普通は暗くなった森を抜けたりする奴はいない。電気という科学の光とバイクがあるから出来る芸当だ。