佳之さんは帰っていった。この会談にどんな意味があったのかは謎だが、お互いに今後この話題に触れないという同意が取れただけでも上出来だよね。 ウチの親は部屋の外で聞いていたかもしれない。 部屋から出る様子もない俺のことを、夕飯に呼びにすら来なかったもんな。 出歯亀してんなよ。家族間にもプライバシーはあるんだぞ。「……なんか、落ち着かねえな」 今すぐ彼女の声が聞きたい。 琴音ちゃんに連絡しようと、俺はスマホを取り出した。 コール二回で即つながる。『は、ハロー! 白木琴音だよ!』「……その挨拶気に入ったのか……」『あ、あああうう、や、やっぱりちょっと寂しくなって、祐介くんの声が聞きたいなあ、なんて思ってたら、ちょうど通話着信があったので……』 別にミ〇イアカリからお金をもらっているわけではなさそうだ。 どうやらテンパると変な挨拶になってしまうらしい。「……そっかそっか。俺も声が無性に聞きたくて、ついね」『え、えへへ……』「似た者同士なのかな、俺たちは」 俺の声が聞きたい。そんなこと言われて嬉しくないわけがないやん。 一方通行じゃないこの気持ちを確認したくて、言葉を絞り出す。『……いいえ。似てないですよ』「ひどい」 否定されてちょこっとだけ泣きそうになる俺だったが。『……だって、わたしのほうがきっと、『好き』って気持ちが大きいですから』「……」『祐介くん……だぁい好き、です』 すぐあとに、違う意味で泣きそうになった。 俺が、今いちばん欲しいもの。 琴音ちゃんは、それを惜しみなくくれる。 だが、もらってばかりではいられない。彼氏としてはね。「いやいや、俺だって」『待ってください、絶対にわたしのほうがこれ以上なく』「間違いなく俺のほうが限界まで」『……しょうがないですね、じゃあ違いを証明してみせます』「どうぞどうぞ」『ここでダチョウの流れになるとは思いませんでした……』 琴音ちゃんは少し大きく息を吸って。 観念しなさい、とばかりにこう言った。『祐介くんがもしいなくなったら、わたしはさみしくて死にます。そのくらい、好きです』 一瞬、ぞわっ。 冗談っぽく言ってはいるが、本気度が半端なく感じられたから。 ウサギ並みだな、おい。 でも琴音ちゃんのバニー姿……いやいや、佳世を一撃で仕留めたあたり、凶暴なウサギ、ボーパルバニーかもしれん。 おっぱいに気を取られてたら、くびをはねられた、ってか。痛みを感じる前に死ねそうだ。 ──さて、なんて返すべきでしょうかね。 そんな悩みも、幸せのうちだよな。たぶん。