「奪還ならず敗北に終わってしまいましたが、今のお気持ちは!」「大きな差があったように思われますが、原因はなんだとお考えですか!」「次回に向けての抱負がありましたらお聞かせください!」 夏季霊王戦が終わるやいなや、ヴォーグは控え室へと至る通路で、大勢の新聞記者から取材を受ける。 半年前の彼女は、彼らを無視する余裕がまだ残っていた。 しかし、現在の彼女は……。「たまたま作戦が噛み合わなかったのよ。サラマンダラがもっときちんと動けていたら結果はわからなかったわ。私、この半年、ちょっと忙しかったから、次はしっかり準備して挑みたいわね。でも彼、とても性格悪いから、きっと私にだけ勝てるような意地の悪い作戦を立ててくるんじゃないかしら?」 言い訳と中傷が、口を衝いて出る。 仕方がない、と言えた。 事実を語るならば「全てにおいてセカンドに劣っていたから」としか答えられない質問。そんな惨めな言葉など、元霊王のプライドが許すはずもない。 彼女の精神状態はギリギリだった。聡明だったはずの彼女は、今やその嘘が自分の首をじわじわと絞めていることにさえ気付けない。 百年の努力を全否定されたのだ、当然である。むしろ彼女は、驚くほど強かった。この強さを、セカンドは見抜いていたに違いない。ゆえに、彼女をここまで粉微塵に潰したのだ。「セカンド来るぞ!」 ヴォーグを囲んで盛り上がる取材陣が、慌てて走ってきた記者の報告で一気に静まる。 直後、闘技場側のドアを開けてセカンドが通路に入ってきた。「セカンド三冠! 防衛おめでとうございます! 今のお気持ちは!」「これで二冠目の防衛となりましたが、三冠目への意気込みは!」「今季は何冠獲得されるおつもりなのでしょうか! お聞かせください!」 記者たちは一気に移動する。ヴォーグに対して感謝の言葉すらなく。 ついぞ、ヴォーグの前には誰一人として残らなかった。「なんなのよ……」 惨め。この一言に尽きる。 ヴォーグは立ち去ることすら忘れ、取材陣に囲まれるセカンドをただぼうっと眺めることしかできなかった。「ん? おい、お前らヴォーグにも取材したのか」 すると、そんなヴォーグの様子に気付いたセカンドが、記者たちへと逆に質問を投げかける。「え、ええ」「冗談だろ?」「え? いえ……」 一瞬にして、空気が冷たいものへと変わった。 皆、感じ取ったのだ。怒っている、と。「ヴォーグに取材したやつ、正直に手を挙げろ」 セカンドが言うも、誰も手を挙げない。 ……否、一人だけ、恐る恐る手を挙げる記者がいた。「お前は」「ヴィンズ新聞です」「ああ、あの」 セカンドは一つ頷き、そして周囲の記者を見回す。「どんな質問をした?」「……申し訳ありません、どうやら聞き違えていたようです。誰も手を挙げないものですから、私はてっきり取材していない者が手を挙げるのかと」 瞬間、記者たちは「やられた!」という顔をする。 事実、ヴィンズ新聞はヴォーグに対して取材をしていない。何故なら編集長からNGが出ていたからだ。 挙手をしたこの記者は、編集長から指示を出された当初はその理由を理解していなかったが、つい先ほど、全てを理解した。セカンドが怒るからだ、と。 であれば、他の新聞社を出し抜く好機。上手く機転を利かせ、見事、この場にいる記者全員をハメたのだ。「そうか。じゃあヴィンズ新聞以外のやつらは帰れ」「…………」「何してる。早く帰れ」「…………」 記者たちは困惑するばかりで、動かない。「なんだよ、何か文句があるのか? お前らはヴォーグに取材したんだろう? そんな配慮のないやつらに用はない。ここにいたって目障りなだけだから早く帰れと言ってるんだ」