「ちょ、ちょっとまて! これは誤解だ!」 今の咲姫が危険だと知っている俺は、アリスさんの膝から頭を上げて立ち上がり、どうにか咲姫を説得しようと試みる。「カイ……今日は楽しかった……。じゃ、無事を祈ってる……。ちびっこ天使も、またね……」 アリスさんはそう言うと、口調はいつもの気怠げに戻っているのに、素早い動きでピューッと咲姫の隣を駆け抜け、桜ちゃんの頭を撫でていった。「え!? この状況で俺を置いて行くんですか!? ちょっと待って下さいよ!」 俺の叫びはアリスさんには届かなかったのか、戻ってくる気配は無かった。「ふ、ふふふ」 アリスさんが居なくなった事に絶望していると、咲姫が変な笑い声をあげ始めた。 や、やばい……。 本当にこれはやばい奴だ……。「お、おちつけ……! お前は誤解をしている」 俺はどうにか咲姫を説得しようとするが――「膝枕までされてて何が誤解よ、このバカー!」 バッチン――! ――と、咲姫から本気のビンタを貰うのだった――。2「――ただいま……」 カイの姉が帰ってきて恐らく修羅場となっているであろう場から逃げてきたアリスは、家に戻ってアリアの元に向かう。 もう少しカイの頭を撫でてたかったけど……凶暴そうなのが帰ってきたから、身の危険を感じて帰る事にした。 カイは酷い目にあってるかもしれないけど、これもまた修業の様なもの。 女心を理解できるようになるための、必要な試練だね。「あ――やっと帰ってきたお姉ちゃん! 早く助けて!」 アリスが帰った事を伝えにアリアの部屋を訪れると、ロープでグルグルに巻かれて吊り上げられてるアリアが居た。「……これはまた……中々のご趣味だね……」「違うから! 青木にされただけであって、私の趣味じゃないから!」 わかってたことだけど、面白そうだったからとぼけてみると、アリアが良い反応を返してくれた。「ニコニコ毒舌……アリスじゃあ無理だから……下ろして……」「はい。…………もう少し吊るしておきたかったんですけどね……」 アリスがニコニコ毒舌にアリアを下ろすように頼むと、ニコニコ毒舌は残念そうにしながらアリアを下ろす。「あんた本当にいつか覚えてなさいよ!」 ロープを解ほどいてもらってすぐ、アリアがニコニコ毒舌に怒鳴り声をあげた。「いつかじゃなく、今でもいいですよ?」 ニコニコ毒舌は素敵な笑顔でそう言うと、アリアにゆっくりと歩み寄る。「く、来るなぁ! あんた容赦なさすぎるのよ! 私はお嬢様よ!?」「主人をしっかりと育て上げるのも、使用人の役目ですね。自分、とても心が痛みますが、アリア様の将来の為に厳しく躾けさせて頂きます……!」「あんたいつも私の事を主人って思ってないでしょうが! 何都合よく様呼びしてるのよ!」 アリアは怯えが混ざった悲痛な表情で、ニコニコ毒舌から逃げ回ってる。 その様子を見る限り、今日一日しっかりと罰を受けたみたいだった。「――はぁ、はぁ……。そ、それでねお姉ちゃん……」 どうにかこうにかニコニコ毒舌から逃げきったアリアが、息を切らせながらアリスに話しかけてきた。 ――ニコニコ毒舌はわざとアリアを捕まえずに、走らせ続けてただけだけど。