第二項 護身術としての理念本項では、白兵戦のためのものではなく護身術として体系化され、伝承されてきた伝統的なムエタイとしての武術の理念を見ていきたい。伝統ムエタイとは、近代的な装備であるグローブやリングの導入前のムエタイのことを指し、現在の近代ムエタイと比較して、ムエボラーン(伝統的ムエタイの意味)と呼ばれ、現在もこれを継承しているジムがある。最古のムエタイ教本であるタムラームエ(第三項参照)の絵には、タイ仏教の特徴を示すモンコン(Fig. 14)などが見られる。モンコンは、経文の書いた布を丸めて作った護符56であり、僧によって祈られる。このモンコンから分かるように、この時代には、すでにムエタイが仏教と関係があったことが伺える。また、ムエタイが仏教的格闘技であるということを示す文献 K aya『Sirrapa haeng MuayThai(Glimpses of Muay-Thai;The Siamese Art of Buddhatantric Self-defense)』1989 には、ムエタイは、博識な僧によって技能教育として教えられたということが述べられている57。