「すぐに食えるようになるぞ、食器を用意してくれ。人数分あるか?」「本当ですか? 食器は野盗の男たちが使っていた物がありますから」 野盗は50人以上いたからな。この人数でも大丈夫だろう。 女達によって用意された深皿やスプーンは殆ど木製だが十分に使える。「ああ――騎士爵様には俺の食器を用意した方がいいかな?」「気にすることはないぞ?」 いつの間にか俺の後ろに騎士爵様が立っていた。周りを散策してきたらしい。「戦場では食事すら満足に出来ないこともしばしばあるからな。こんな所で美味い食事が出来る事自体がありがたい」「戦にも参戦した事が、おありなんですか?」「ああ、何度かな。だが殊勲を取ったわけでもなく、未だに無役の騎士爵のままだが」「今回のこの討伐で、役ぐらいは貰えますよ。だいたい騎士爵様のように優れたお人が無役って事がおかしい」 今回同行した冒険者達も頷うなずいている。「世の中、中々上手くはいかん」「どうせ役立たずの大貴族の子息様とかいう連中が重役を占めてしまって、能力のある人材が割を食っているんでしょう」「まぁ、そんなところじゃな。そんな連中は戦になっても後衛で飯を食っているだけじゃからの。 ホホホ」 あまり笑い事じゃないがなぁ。 鍋が煮えたようなので、圧を抜くと白い噴水のように勢いよく蒸気が吹き出す。「それはどういう仕組なのじゃ?」「鍋の蓋を締め閉じ込めて中を圧縮するんだよ。そうすると早く煮える」「ほう、魔法でも圧縮すると温度があがるぞ。なるほど理に適っておるのう」「あの、ケンイチさん。その鍋を商会に卸していただくのは……」「これは、ちょっと拙まずいかなぁ。しかし原理が解ったなら似たような物を作れると思いますが」「その通りじゃ、要は蓋をぴったりと閉めれば良いのじゃろ?」「まぁな」 話をしつつ、コンソメの素を入れる。商品の袋には水1Lに対して18gと書いてあったから、水は20Lで360gあればいいわけだ。 こいつは500gあるから約3/4だな。 皿に乗っていたコンソメの素、3/4をヘラで鍋に入れ、だしの素と胡椒も1/2瓶入れてしまう。加減が解らんが40人近くいるんだ、こんなもんだろう。 ちょっと味見をしてみる。「ん、美味い」 ニャケロや他の冒険者達にも味見をさせてみる。「美味いけど、もう少し塩気が欲しいな」 肉体労働した後だからな、塩分が欲しいのかもしれない。残っていたコンソメの素を全部鍋へ投入した。 そして、シャングリ・ラから【訳ありパンセット一袋】という1200円の物を20袋購入して、ビニール袋のまま地面に並べた。 もう皿に移すとかやっている場合じゃない。とりあえず食えればいい。 準備が整うと皆が一斉に料理にかぶりつきはじめた。