「状況としてはあの通り、国境線を挟んで距離を取り、睨み合っている状況です」「このまま硬直状態なら何も起きない気もするが?」「ええ、このままなら。ですが……奴らは明日、公開処刑をするようですね」「捕まったのか?」「はい。斥候が一人」「馬鹿お前……そんなの」「分かっています。案の定、奴らは斥候である彼を暗殺者に仕立て上げ、罪をねつ造してこちらの挑発のためだけに処刑を実行する。処刑が今日でないのは、彼がなかなか情報を吐かないからでしょう。昼夜問わず拷問するつもりなのです。それとも、単に私たちを焦らしているつもりなのか。はぁ……そんなことは、分かっていますとも」 こいつの言う「手を出さざるを得ない状況」って、斥候が捕まるなんていうしょーもないミスの尻拭いかよ。おいおい……。「そんな顔されなくても……私も悩みましたよ。しかし見捨ててはおけないのです。彼も私の大切な部下の一人。このまま黙って処刑を見逃しては、士気も際限なく下がるでしょう」「そいつ一人のせいで王国が危機に陥ってもか?」「え? いえ、危機には陥りませんよ」「は?」「私はセカンド卿がいらっしゃるから処刑を食い止めると決めたのです。貴方がいらっしゃらないのなら、血涙を流して見捨てていますよ」「……調子良いなぁお前」「よく言われます」 何か納得だわ。聞けばこいつ33歳だという。その若さで辺境伯までのぼり詰めるだけはあるな。性格が相当にひん曲がっている。「まあ、いい。作戦の確認だ。辺境伯本隊は左翼と右翼に分け、伏兵が攻めてきた場合に備えて砦周辺で待機。それ以外は砦前方でいつでも突撃できるよう待機。後は全て俺に任せろ」「それで本当に上手くいくので?」「ああ。むしろお前らの出番はないと思うぞ。それと……」「何です?」「今夜起こったことは、なるべく他言無用で頼む」