実にあわただしい二が武の街出発となってしまったが、何はともあれ次の目的地である三が武を目指す。面子的に通行手形で足止めを喰らう心配はないし、進行スピードの極端な低下は発生しないだろう、変なトラブルがなければ、だが。
「で、カザミネの勢いに押されて一緒についてきちゃったけど、護衛ってどこまでいくの?」
「龍城まで行くことになるよ、つまり龍の国の最奥まで、って事になる」
ノーラの質問に自分は予定されている内容を返答する。本当にカザミネが必死で食いついてきたものなぁ……いやまあ、一目惚れした様子であるということは分かっていたが、ここまで恋の炎が燃え上がっているとは思わなかった。そんな一目惚れした女性が突然目の前でほかの男性とデートに行きますなどと言い出したら、心穏やかでは居られないのは無理もない。仮想空間の中とかそんなつまらない建前など一瞬で吹っ飛ぶだろう。
「アップデートまでやること少ないからのんびり龍の国を観光しようかーって予定だったんだけどね、僕達の予定は。カザミネくん、今回の事は貸し、一つね」
「いや、私に無理に付き合う必要はないのでは?」
ロナの台詞に押され気味であるカザミネの台詞。
「だって、面白そうなことが目の前で発生したんだもの、これに付いて行かない理由はないでしょ♪」
一方のノーラは、本当に面白いことになったとばかりに嬉しそうな笑みを浮かべている。いい暇つぶし要素を見つけたとばかりに食らいついているな。恋話が嫌いな女性は居ないなんて言葉を誰かがいっていたが、その言葉はある意味真理かもしれないな……。
そんな賑やかな会話を交わしつつ、関所へと足を運ぶ。関所は実にあっさりと通過できた。手形を見せる必要すらなかった。何故なら……。
「話は伺っております、どうぞ」
と、お役人様が火澄さんに対して実に丁寧なお辞儀をして、顔パスで通過できたからだ。龍王の奥様の知り合いというのは伊達ではないらしい。この時にカザミネ・ノーラ・ロナも、この状況を見て火澄さんが只者ではないということに気がついた。というか、気がつかなかったらおかしい。
関所を難なく通過した後に火澄さんへ『一体貴方は何者なのでしょうか?』といった内容の質問をブルーカラーの三人はしていた。火澄さんはその質問に対して『秘密ですよ♪ そのほうが色々と想像できて楽しいでしょうから』と軽く流していた。当然自分にも火澄さんの正体についての質問は飛んできたのだが、カスミさんが言わない以上自分から言うべきではないと考えて、質問は適当に流した。
「まああんまり人を詮索するのはよろしくない……って、何か来るぞ」
三が武の平原に出る少し前の坂道で、モンスターらしき反応が三つほどあることに自分は気がついた。そこそこのスピードで近寄ってきていることから走っていると予想がつく。
「この辺りってことは、イノシシもどきかな?」
ノーラも素早く短剣を構える。戦闘時になればさすがに言葉にも真剣味が入る。
「おそらくそうだろうな、見つけ次第さっさと始末しようか」
「同感ですね、下手に戦闘を長引かせるのは愚かですからね」