可能な限りで構わねぇ。各地の街、村、集落の事を知りてぇんだ」 その言葉の重さに、二人の目が強く、鋭くなる。 しかし、それを受けるブルーツの目もまた、真剣そのものだった。「興味本位、という訳ではないようですね」 言った後、ジェイコブはキャサリンを見る。 キャサリンは脚を組み、肘を抱えて空を見上げる。「……ま、お茶代くらいは話してあげるわよ」「ありがてぇ」 ブルーツはその場に座り、胡座をかいた。 ジェイコブもキャサリンの隣に腰掛け、キャサリンと同じように空を見上げた。「何から話しましょうか?」「いいんじゃない? 二人で行動してた訳じゃないんだから。それぞれ見てきた事を話せばいいのよ」「……そうですね」 ジェイコブはキャサリンの話に同意し、暫く黙り込んだ。 それは、ジェイコブの顔すらも歪めるような、重く辛い話だったからだ。「……聞いてるかもしれませんが、大きな街はまだ辛うじて機能しています。しかし、中小規模の街や村、集落はほとんど地図から消えていると思った方がいいでしょう」「…………そんなにか」「勿論、ギルド員の誘導、私たちの時間稼ぎによって大きな街に転移した者たちは助かっています。その大半はベイラネーアかこのトウエッドに来ているはずです。まぁレガリアに飛んだ者もいますが、先の作戦でそれもこちらに転移しているので、一番人口を抱えているのは、このトウエッドだと言っても過言ではないでしょう」「そうか……」 ブルーツの声が少しだけ明るくなった。しかし、そこから先のジェイコブの言葉は、闇の一言であった。「当然、助からなかった土地もあります」「っ!!」「街は血の海。人とは言えぬ骸。残骸に埋まり、助けを請うかのように天に向かって挙げられた腕。男も、女も、子供も、誰にも訪れた等しい死。僕はそういう土地を沢山見てきた。正直、元六勇士なんて看板さえなければ、逃げ出したい気持ちでいっぱいだったね」 長い鼻息を吐いた後、ジェイコブは肩を竦めた。そして、キャサリンの方を見るのだ。「……勇敢に戦った者も当然いたわ。街の、村の、集落の皆を逃がすために命の限り戦った戦士や魔法士。駆けつけた私の目の前で食われたヤツまでいたわね」 キャサリンは辛い過去を思い出すように、顔を暗くする。「……馬鹿ね。死んじゃ意味ないのよ、まったく」 キャサリンの言葉には、死者に対する侮辱が込められている。ブルーツはそう思った。しかし、そんな事はキャサリンの苦悶の表情を見れば、一目瞭然だったのだ。 俯き、黙る二人に、ブルーツは深く頭を下げる。「……ありがとう」 そんな反応は聞き飽きた。二人はそんな表情をする。「なーによ? こんな事聞いて何がしたかったのかしら……」「いや、まぁ……なんつーかな? ははは……」 ブルーツははにかんで笑いながらキャサリンを見る。 言葉にならない感情。キャサリンはブルーツの意図に気付いていたのだ。「死んだって思い出してくれる人はいないわよ」 無慈悲とも思えるキャサリンの言葉。「なるほど、なんともお優しい銀狼もいたものだね」 ジェイコブも、ブルーツの質問の意味に気付く。「な、何でだよっ」「馬鹿ね、あなたがいるチームは天下に名を轟かせた銀よ? そこの特攻隊長が死ぬんだったら、大抵の人間が死んでる時よ。思い出してくれる人なんて、生きちゃいないのよ」「っ!」