今度は本番なので、俺とアネモネ用には、蜘蛛の卵を使った。「それなんにゃ?! 凄く良い匂いがするにゃ」 臭いに敏感なミャレーが反応した。「本当! とても甘そうな匂い!」「香料だよ。凄くいい匂いだけど、これ自体は不味いからな」 アネモネの手の甲にバニラエッセンスを垂らしてやった、その匂いをクンカクンカしている。 再び、プリンを蒸し器に入れて、蒸しあがったら水に浸けて冷ます――完成だ。 これは、夕飯のデザートにしよう。「魔法の実験は明日にしようか。明日なら皆が揃っているだろうし……」「解った」 アネモネは、すぐにでも試したいようだが、爆裂魔法エクスプロージョンとなると簡単には試せない。広い場所が必要だろうしな。 ここで、そんな場所といえば――湖か。 それに、ニャメナが留守なところで、あれこれやったりすると、彼女がへそを曲げそうだ。 夕方になり、日が傾き始めたので、プリムラとニャメナを街へ迎えに行く事にした。 だが街道に到着した俺を待ち受けていたのは――。「モー!」 俺の目の前にいるのは、焦げ茶色で小さく長い脚をした子牛――だろう。多分、牛だと思う。だって、「モー」って鳴いているしな。 プリムラとニャメナが、子牛を連れていたのだ。「プリムラが買いたかったのは、これだったのか?」「そうです」「家で飼うのか? しかし、こいつは、まだ乳離れしていないと思うんだが……」「その通りです。だって、このくらいの子牛じゃないと、役に立たないのでしょ?」「……まさか。子牛の胃袋を使って、チーズが本当に出来るかどうか、調べるつもりか?」「はい、この目で見るまでは信じられませんので」 なんということだ、本当に子牛の胃袋に含まれるレンネットを使って、チーズが作れるかどうか確認するために、子牛を買ってきたようだ。「何故、確かめようと?」「それが本当なら、貴族相手の取引材料として、有効だと思ったからです」 なるほど。チーズの作成法は秘匿されているらしいから――それを取引材料にして、彼女の店への嫌がらせを止めさせるように交渉をするつもりか。 いくら相手が悪徳商人でも、領主の命令を無視するわけにはいくまい。「ダメでしょうか?」 彼女が、じっと俺の顔を見てくるのだが……。 まぁ、元世界の知識とはいえ俺の専売特許というわけでもない。重機を使ってバイオレンスモードに突入するよりは、スマートな取引といえるだろう。「いや、構わんよ。無頼相手に大立ち回りするよりはいいだろう」「俺としては、そっちの方がいいんだけどなぁ」 ニャメナは不満そうなのだが、派手に暴れてしまうと、この街からも逃げないといけなくなるだろ。