「な、なんで黙ってるの……? ねぇ、そうなんでしょ? こいつがKAIなんだよね?」 アリスさんから俺がKAIだと答えてもらえなかったアリアは、戸惑いながらもアリスさんに尋ねる。「……」 しかし、アリスさんはやはり何も答えない。「何で答えてくれないのよ!? わかってるの!? こいつがKAIだと証明できなかったら負けるのよ!?」 とうとう痺れを切らしたアリアが、アリスさんにそう怒鳴る。 アリスさんはそんなアリアに対して、若干眉をひそめ、困ったような表情をする。 馬鹿だな、アリア……。 ちゃんとアリスさんはお前に教えてくれてるじゃないか。 俺がKAIだって事を。 アリスさんはアリアの質問に肯定も否定もしていない。 それがアリスさんから出す、アリアへの答えなのだ。 何故なら、アリスさんは答えないんじゃなく答えられないんだ。 もし肯定してしまえば、KAIとの契約に触れる事になるから。 アリスさん自身は現在平等院システムズに籍を置いていないが、アリアの姉に当たるため、平等院システムズの関係者だ。 つまり、アリスさんが俺をKAIだと認めてしまえば、平等院システムズはKAIとの契約を破った事になり、二億の賠償金を負う事になる いくら平等院システムズが大きな会社とは言え、二億は安くない金額だろう。 だからアリスさんは俺がKAIだと知っていても、肯定する事が出来ない。 しかし、その代わりに否定もしていない。 アリアはKAIとの契約内容を理解しているはずだから、何故アリスさんが肯定も否定もしないかをちゃんと考えればわかるだろう。 それで気づかないという事は、それほどアリアは追い込まれていて、余裕が無いという事なんだろうな。「もういい! 別に今回二億の株が無くなっても、痛手ではあるけど十分やり直しが出来る! だからあんた達覚えてなさいよ! 絶対今回の借りを返してやるから!」 アリアは今回の勝負について諦めたらしく、まるでアニメの悪役が捨て台詞を吐くみたいにそんな事を言った。 ――じゃあ、ここからは俺が出しゃばらせてもらおう。「おいおい、まさか今回の勝負がそれだけで終わると思ってるのか?」 俺がもう帰ろうとしているアリアに対してそう言うと、アリアが怪訝な表情で俺を見てきた。「は? どういう事?」「お前、雲母に人生賭けさせといて、自分だけ負けても安全圏で居られるとか、本当に思ってたのか?」「いやいや、意味わからないんだけど? 元々私は、そいつの倍の金額の株を賭けてたわけだし、人生を賭けるとか、そんなのお金を稼ぐ実力が無い、そいつが悪いんでしょ? 寧ろ倍の賭け金を出した私は、良心的なくらいよ?」 アリアは、雲母に人生を賭けさせたことを悪びれた様子もなく、そう言った。