「金がないなら、証文を書いてもらってもいいぞ。お前は女房子供はいるのか?」「王都にいる……」「それじゃ、金が払えなかったら、女房子供を奴隷に落とすって事で――」「そ、そんな無茶な!」「じゃぁ、ダメだな。どのみち借金残して店が飛べば、奴隷に落ちるぞ?」「……」 俺の隣にいるアネモネが黙っている。いつのも「助けてあげないの?」攻撃がくるかと心配していたが。「アネモネ――今日は、『助けてあげないの?』って言わないのか?」「今日のは、ちょっと違うと思う……」「ほう、どう違うんだ?」「商人っていうのは、儲けたり損をしたりするんでしょ? 儲けた時に、皆に分け与えたりしないのに、損をしそうだから助けてくれってのは、ちょっと違うと思う……」「そうだな、子供でも解る理屈だったな」「くっ!」 商人は立ち上がると、革袋を担いで王都へ向けて走りだした。「アネモネは賢いなぁ」「その言い方は、ちょっと嫌」 黙って見ていた獣人達がやって来た。「俺りゃまた、旦那助けちまうのかと思ったよ」「にゃー」「馬鹿を言うな、俺は皆が言うほどお人好しじゃないぞ。王都に戻れなきゃ手形が飛ぶって事は、一か八かの勝負に出たって事だ。博打に負けそうだから助けてくれって、そんな虫のいい話があるはずがない」「その通りですわ。余裕のある商人は、この状況でも仕入れをしたりしていたでしょう?」「ああ、そうだったな。旦那から樽を買ったりな」 これで、商人が美人の女だったりすれば、また話は違うのだが。「でも、サンタンカの奴らは助けたから、ケンイチはまた助けると思ったにゃ」「クロトン一家は、先ず全財産を俺に差し出して、『助けてくれ』って言ったからな」「そういえば、クロ助からそんな事を聞いたような……さっきの商人は金の事も後出しだったし、高いとか文句言ってたな」「そういう事だ」 クロトン一家には、アネモネと遊んでくれたマリーがいたしな。知り合いなら、多少の贔屓はある。 プリムラだって、マロウ商会と全く接点がなかったのであれば、助けに行こうとは思わなかっただろう。「あんな状態では、今回は凌げても、いずれは……」「そうだよな」 中小企業で、運転資金のために街金に手を出したり、手形をジャンプしていたら、いずれ破綻する。 早いか遅いかだけの話。だが、なんとかしようとして結局、倒産間際に膨大な借金を抱えてしまう。 途中で廃業すれば、ちょいマイナスぐらいで済むのにな。