しっかりと完食してくれた後、アイラちゃんは弾ける笑顔でお礼を言ってくれた。 寿司酢に使ったワインビネガーに一抹の不安はあったけど、問題なかったようだ。 アイラちゃんはこの後も仕事があるというので、おやつにどうぞとパウンドケーキを渡して、別れた。 パウンドケーキは宮廷魔道師団の人達に人気らしい。 取り合いになりそうだと言われたので、数本まとめて渡しておいた。 アイラちゃんは恐縮してたけど、大丈夫よ。 パウンドケーキはいつも多めに作ってあるもの。 そして翌日。 研究所に思わぬ客が来た。「どうされたんですか?」「少しお伺いしたいことがありまして」 始業時間すぐのこと、師団長様が訪れた。 その後ろには、困った表情をしたアイラちゃんもいる。 朝から麗しい笑顔で佇む師団長様にたじろぐ。 一体どうしたというんだろう? 取り敢えず、入り口で立ち話もなんなので、応接室へと案内した。「昨日、ミソノ殿が食べた料理についてお伺いしたくて参りました」「昨日の料理というと、混ぜ寿司と味噌汁のことでしょうか?」「そうです! そちらの料理を私も食べてみたいのですが、用意していただけないでしょうか?」 応接室のソファーに腰掛けるなり、師団長様は話し始めた。 何というか、師団長様の笑顔の圧が強い。 説明を求めてアイラちゃんに視線を送ると、アイラちゃんもよく分からないようで首を横に振られた。 けれども、状況の説明はしてくれた。 昨日、宮廷魔道師団の隊舎に戻ってから、魔法の訓練をしていたそうだ。 そこへ訓練の様子を見に、通りがかった師団長様。 暫くはアイラちゃんが魔法を使っているところを見ていたらしいのだけど、そのうち変なことを聞いて来たんだとか。 今日は何か変わったことをしたり、されたりしなかったかという問いに、アイラちゃんは研究所の食堂で昼食を取ったことを話したらしい。 なるほど。 恐らく昨日食べた料理のどちらかに、師団長様の興味を引いてしまう効果があるのだろう。 師団長様の様子を見れば、十中八九、魔法に関わる効果だということが分かる。 丁度、お米や味噌を使った料理の効果を調査しようと思っていたところだし、師団長様に実験に協力してもらうのもいいかもしれない。「用意するのは構わないのですが、実はお願いしたいことがありまして」「何でしょうか?」「すみません、その前に所長の許可を貰って来てもいいですか?」「分かりました。私も一緒に行きましょう」 言うや否や、師団長様は立ち上がる。 余程、昨日の料理が食べたいらしい。 取り敢えず、許可はすぐに貰えると思うからと、何とか押し留めて応接室を後にした。 何も言わなかったけど、あの様子では私が戻って来るまで応接室にいるだろう。 急ぎ足で所長室に向かい、ドアをノックする。 応答の声が聞こえたのでドアを開けると、驚いたように所長がこちらを見ていた。