ポーションの転がっていった先は、崖になっていたのだ。 気付いた時にはもう遅い。プルムの体は完全に崖から投げ出されていた。「うわああああああッ!?」 落ちる! プルムがそう直感した、直後――。「……っ……」「全く世話の焼ける、と申しております」 機嫌の悪そうな声とともに、プルムの体がグルグルと糸に縛られる。 半径4メートル以内の相手を糸で拘束するスキル、《金将糸操術》――イヴ隊所属の暗殺者ルナによる救助であった。「う、ぐえッ……あ、ありがとうござ、いぎぎぃっ!」 糸でぷらりと崖に吊るされるプルム。非常にキツい拘束であったが、状況的にお礼は言えども文句は言っていられない。「……ぁ……っ」「ご主人様からいただいたポーションを粗末にはできません、と申しております」 一方でイヴは、崖から落ちたはずのポーションを糸で絡め取っていた。 自身の体は、崖からにょきっと生えている木に、これまた糸でぶら下がっている。「おげぇっ! ……い、痛っ、ありがとうございますっ。痛てて……」 ルナはグイッと糸を引き寄せて、崖の上にプルムの体を乱暴に放り投げた。プルムは体じゅうあちこちを打撲したが、命が助かったと思えば大したことではないので、再度お礼を口にする。 次いで、イヴが状態異常回復ポーションを崖の上へと遠心力を使って投げた。パシッとルナがキャッチして、万事解決。ピンチは脱したかに思えたが……。 ミシッ……と。イヴのぶら下がっている木が、嫌な音をたてた。「!」 状況を一瞬で理解したルナが、イヴを拘束しようと即座に糸を伸ばす。 イヴもまた、その木以外に掴まる場所を探した。 だが、間に合わない。「っ……!」 メキメキメキ! と、大きな音をたてて、木が――折れた。 空中へ投げ出されたイヴは、なすすべなく落下していく。 ……崖は、相当な高さだった。如何な序列一位といえど、この高さから落下すれば、ただでは済まない。 ゆえに。ルナは珍しく焦りの表情を浮かべて、イヴを助けるために、自身も崖の下へと飛び込もうと足を動かした。 そんな彼女の手を、プルムが引く。「何を……!」「大丈夫、っす」 ルナは怒りをあらわにする。散々迷惑をかけておいて、この上こいつは……と。だが、そんな非難の視線を受けて尚、プルムはルナを安心させるように言葉を続けた。「呼びました。だから、きっと、大丈夫っす」 プルムは、木が軋んだ時、既に呼んでいたのだ。 イヴが今まさに崖から落下しそうだと、チーム限定通信で。