いつものように、いつもの恰好で、何のためらいもなく少女から抱きつかれる。どこか甘い彼女の香りが漂い、華奢な腰の感触が手の下にある。 ふたりきりの時間というのはどこか不思議で、贅沢で、外から響く風の音しか聞こえてこない。 間接照明のなか、少女からじっと見つめられるこの時間こそ、きっと大切なのだろうと僕は感じる。 その彼女がもぞりと身じろぎをして、ゆっくりと布団から身を起こしていった。「不思議、なんだか今夜は寝つけないわ。胸がどきどきするの」「僕もだ。どうしてかな」 いつもなら温もりを楽しんでいるうち、まぶたが勝手に重くなるというのに。なぜか胸の鼓動が収まらなくて、まだまだ起きていたいと子供のように思うのだ。 だけどその理由は少しだけ分かる。 僕は夢の世界がとても好きで、剣や魔法というファンタジーの世界に憧れていた。しかしそれよりも彼女との時間の方がずっと大切になったのだろう。 きしりとベッドをきしませて、エルフ族のマリアーベルはベッドに座る。白いネグリジェ姿で、どこかソワソワとした表情で微笑みかけてくる。 ダウンライトに包まれた彼女は、とても柔らかそうな肌だと思う。その瞳もまた、初めて会ったときよりずっと優しい形をしている。 誘われるまま僕も身体を起こすと、もうちょっとお話をする時間ができた。「私たち、夜更かしをしてしまうのね。なんだかちょっと不良になった気がするわ」「エルフ族の習わしを教えてくれる約束だったね。君たちの家でも、やっぱり夜更かしをすると怒られていたのかな?」「ええ、光の妖精を取り上げられてしまうの。それから悪い子ねと言って、額にキスをしてくれるのよ。とても厳しい躾でしょう?」 いやいや、とても可愛らしくて躾とは呼べないんじゃないかな。もしかしなくても人間族のほうがずっと厳しいよ。 太腿を揃えて座る彼女には、すっと長い耳がついている。髪の毛はたんぽぽの綿毛のように真っ白で、ファンタジーとしての気配が色濃い。 たぶんこれは幻聴なのだろう。鈴の音のように、耳の奥から「試しに言ってみることじゃ」という声が響いた気がした。 ふたりきりの夜には、不思議なことが起こる。ひょっとしたら夢なのではと思うほどの出来事が。