これで決めてやる――と。そう、欲が出た。 何故なら、私の覚えられた奇襲戦法は三つだけだから。準決勝で一つ、決勝で一つ、最終戦で一つ。理想はこうだ。ゆえに、残り二つはなるべく温存したい。セカンド殿に再三言われたのだ。「奇襲戦法は相手が初見の時にしか通用しない」と。 ……何故、私は準備時間の短い《歩兵弓術》を撃たなかったのか。 後悔したところで、もう、遅い。「バァーカ!」 欲を出したら、こうなる。勉強になったな。 ディーは私の《銀将弓術》をギリギリで避けると、あれよあれよという間に体勢を立て直してしまった。 ああ、最悪である。 これで……振り出しに戻る、だ。「貴女、詰めが甘いわよっ!」 ディーの鋭い《歩兵弓術》が襲い来る。 3週間前にも思ったが、やはり彼女は強い。性格は最悪とはいえ、流石は鬼穿将戦出場者。現鬼穿将の一番弟子というだけある。「くっ……!」 まだ距離が近いうちに再び《金将弓術》をお見舞いしてやろうと頑張ったが、先程の鬼殺しを警戒してか、今度は一歩も近寄らせてくれない。 セカンド殿の言った通りだ。奇襲戦法は、やはり初見の相手にしか通用しない技なのだろう。「…………」 一瞬の逡巡。 出すか、出さないか。 ……はぁ。何を迷っているんだ、私は。ディーにだけは、絶対に負けるわけにはいかない。何としても、勝ちたい。なら、出すべきだ。そうだろう? 奇襲戦法、その弐――“香車ロケット”を。「アハッ! 尻尾巻いて逃げるのぉ?」 挑発するディーを無視して、私は全力疾走で最大限距離を取った。 ここまで離れれば、ディーの《歩兵弓術》などこの目で矢を見てから歩いて回避できる。「香車ロケットを喰らえッ!」 奇襲するならその戦法の名前を口に出すのは礼儀だと、セカンド殿から習った。ゆえに、素直にその通りにする。 ただ、このネーミングセンスはどうだろう。ロケットという物がどのような物かは知らないが、何だか語感からしてちょっとダサい。私ならもっと格好良い名前が浮かぶのだがな。闇穿香車光とか、なかなか良いんじゃないか? まあ、いくら名前が格好悪くても……その威力は途轍もないんだがな。「……? それは何? 龍馬……!?」 混乱と警戒とともに、ディーは《歩兵弓術》の手を緩めた。よし、先程の鬼殺しが良い方向へ働いている。 私はディーを遠目に《龍馬弓術》を準備し……私の足元へ向かって、ゼロ距離で発動した。 バゴォオオン! と地面を揺らすほどの衝撃と轟音が闘技場に鳴り響く。 舞い上がる土煙。そして、私の目の前には――私がしゃがめばすっぽり隠れられる程度の“穴”。 間髪を容れずにその穴へと飛び込んだ私は、流れるように《香車弓術》を準備する。 ……後は。ひたすら“連打”だ。 穴の中から、地上に立つ、ディー・ミックスへ向けて。 即ち。地面を無視して撃つ……!「貴女、一体何を――」 土の中を貫通しながら突き進む《香車弓術》の矢が、その何発目かで、通り道を完成させ、ディーへと到達した。