ま、マズい。 じとーっとした瞳で見下ろされているけれど、当人はまるで気づいていない。すぐ隣からも「どうせお出かけ先は同じマンションだし問題ないわ」という会話を始めており、この難題をどうすべきかと悩むことになった。 まずは落ち着いて、靴ひもを解こう。 そしてちゃんと結び直して心を整えよう。 そのあいだに玄関の戸が開けられて、陽光が差し込んでくる。さっさと離れて行く2人の様子に、ほうっと安堵の息を吐いたのは初めてだ。 幻想世界の人たちが遊びにきてくれて困るのは、あの無警戒さだと思う。あちらの世界には魔物がいるのだから警戒心が高いはずなんだけど、その反動というべきか、日本にやってくると肩の力を抜き過ぎてしまう。そんな気がした。 では僕もそろそろ腰をあげますか。 そう思いながら視線を戻すと、そこにはお尻を向けるシャーリーが革靴の踵に指を入れて履いている最中であり、ぎょっと身がすくんだ。慌てて逸らしたけれど、その純白さにしばし頭を抱えることになった。 女神候補さま、お願いですからもうちょっとだけ警戒してください。 青空色の瞳を大きくまばたきさせながら、シャーリーは不思議そうな顔をして振り返った。