“三百二十八日目”
出立の日がやって来た。
鍛冶師さんや姉妹さん、錬金術師さんやドリアーヌさん達残留組と別れの挨拶を済ませ、一旦≪外部訓練場≫に結集し、人数確認や予定の確認などを手短に済ませる。
それが終われば既に準備は出来ているので、順次数台の骸骨大百足に分乗していった。
さて、今回は竜達による空路ではなく、骸骨大百足による陸路を選んだ事は少し不思議に思うかもしれない。
だが、これには理由がある。
当然ながら竜達による空路の方が速い。アッという間に移動できる。少人数なら俺も迷わず空路にしただろう。
だがしかし、流石に約三千名を一度に移動させるとなると竜達が数十から数百頭は必要になってしまう。
流石にそんな数の竜が一度に同方向に移動すれば、周辺の気配を察知したモンスター達が狂乱しかねない。というか、ほぼ確実にする。
数頭程度なら大丈夫だが、しかし数頭で運ぶ場合はかなり巨大な竜が必要だ。そして巨大な竜は極僅かな例外を除いて上位種の高レベルな存在であり、それは天災に等しい脅威である。
近くで大型台風が通過したり大地震が発生すれば分かるように、例え視認できない高高度を飛行しても翼より魔力を主に使って飛行する関係上、高レベルの竜種が飛行時に撒き散らす膨大な魔力を全て隠蔽する事は非常に難しく、高確率で察知されてしまう。
そもそも高レベルの上位竜種は下位竜種の群れよりも強く存在感があるので、それでは数が少なくても意味は薄い。
という事で、陸路で移動する訳だ。
これなら無造作に魔力を撒き散らさないので隠蔽もしやすいし、影響も比較すれば少ない。
ただ聖戦の主戦場は【迷宮略奪
ダンジョン・プランダー
・鬼哭異界】によって最初に得た【鬼哭神火山】を予定しているため、陸路で普通に向かえば時間がかかりすぎる。
よって今回目指すのは地理的に近く使い勝手がいい、【鬼哭水の滝壺】が存在する迷宮都市≪アクリアム≫である。
一応、迷宮都市≪アクリアム≫の近くまでは誰かに発見される可能性を極力減らすため、森の中など人目のつかない場所を【隠れ身
ハイディング
】などを発動させた状態の骸骨大百足達に乗って駆け抜ける。
やや遠回りのルートではあるが、そこは骸骨大百足の踏破力。
森林だろうが渓谷だろうが、モンスターの巣窟だろうが関係ないとばかりに走り抜け、迷宮都市≪アクリアム≫には夜中に到着する事が出来た。
ちょっとした自然観光を終えて、入口を固めている兵達にお転婆姫から貰った【王認手形】を見せてササッと入る。
流石に時間も遅い為、周囲に人通りは少ない。
しかし酒場などからは陽気な笑い声も聞こえているので、目撃者が増えないうちに【鬼哭水の滝壺】の入口に横付けし、乗っていた団員達をサッサと【鬼哭水の滝壺】に突入させた。
その後周囲に人気がない場所まで移動させ、一旦ワープゲートを展開して最下層一歩手前の四十九階に造っている隔離空間まで一瞬で転移していく。
こんな事もあろうかと、あらかじめ用意していた空間は広く快適で、コチラの数が多くても若干の余裕があった。
今日はここで休む予定なので、各自自分の寝所を整えたり、料理を造ったりと行動している。
行軍訓練をしてきただけに、指示する手間がなくて非常に楽だ。