相手が「これしかない」という状況に追い込むことこそがセブンシステムの狙い。そして、後は、そこに決め手を用意しておけばいい。 俺は飛車キャンセルから、ノヴァの振り抜いた腕の外側へと身を躱すようにくるくると三回転した。 彼女は直感するはずだ。《角行体術》の回し蹴りが来る、と。 歩兵を誘発させ、躱し、蹴りで決める。なんとも華麗ではないか。 次の一手、ノヴァは一か八かの賭けに出る。否、出ざるを得ない。 俺の回し蹴りに対して、《香車体術》の蹴りを当て、相殺するしかないのだ。 しかし、この土壇場で今まさに回転している最中の相手から来る攻撃を、自分もまた同様に回転し蹴りを繰り出して相殺するなど、世界ランカーも真っ青の超高等技術。 だが、歩兵から歩兵は上手くコンボが繋がらないため間に合わない。桂馬もまた間に合わない。銀将も同様。金将以上など論外。 そう、もはや、残された手段は香車しかないのである。「くッ!!」 そして、彼女は賭けに出た。 俺が攻撃を繰り出すだろう瞬間を予測し、絶妙のタイミングで《香車体術》を発動した。 ……最高だ。考え得る最高のタイミングで、最高の速度で、最高の方向で、蹴りを放っている。 見事。凄まじいセンスだ。ぶっつけ本番で、まさかこの高難易度の相殺を成功させるとは。 負け、だろう。 …………俺の攻撃が、《角行体術》だったら。「が……ふ……ッ!?」 ノヴァの蹴りは、俺の頭上を素通りしていった。 代わりに、俺の拳が、彼女の腹部にクリティカルヒットする。「……う、裏、拳……かッ……!」 そう、俺が用意していたのは《銀将体術》。パンチとして使うのではなく、裏拳として使った。こういう活用法もある。 予想を裏切る時は、ほんの少しでいい。誤差程度でいいんだ、多分。何より重要なのは、その使いどころだと思うから。 まだまだ、たくさん面白いことがある。 俺なら、お前に、お前らに、教えてやれる。 だから、俺にもいずれ教えてほしい。 せっかく、世界が繋がったんだからさあ。「ノヴァ」 彼女が気絶する寸前、俺はどうしても伝えたかった言葉を口にする。 記念の言葉だ。彼女の門出に、他ならぬ俺が、今ここで、贈らなければならない。「おめでとう」 ようこそ、世界へ。「……ク、ハッ……」 真意が伝わったかどうかはわからない。 だが、彼女なりに、理解したのだろう。最後に、彼女は清々しい顔で笑った。「――それまで! 勝者、セカンド・ファーステスト!」 七冠。