――「はい、ぜひ。あ……ですがその、神聖な場所ですので、あまり荒らさないでほしいのです。わたしたちは神殿跡地には絶対に入らないようにしていますし、ジュニッツ様も、そっと今のままの姿にしておいてほしいのです」 ――リリィが言うには、ここは妖精の森ができた当初から神聖な場所で、妖精たちは決して近づかず、そこに妖精王が「我は神の声を聞いた。これより神から魔法を授かる」と言って神殿を建てたのだという。 神殿に来たことがあるのは、1人で儀式をしていた妖精王だけである。 その神殿跡地に赤星が大量に埋まっていたということは、妖精王が過去に神殿で数えきれないほど魔法に失敗したということである。 俺がこのあたりを説明すると、アマミは「なるほど……」とつぶやいた。「でも、なんで魔法に何度も失敗したんでしょう? 神殿では、たしか神から魔法を授かる儀式をしていたんですよね。授かった魔法を練習していたんでしょうか?」「残念だが、それは違う。妖精王の儀式の内容をよく思い出してみろ」 儀式の内容はこうだった。 ――族長は神殿に篭もり、神からの魔法受諾の儀式を開始した。 ――魔法厳禁の神殿の中で、人と交わりを断ち、1人でただひたすらに祈りを捧げることで、神から魔法を授かるのだ。 ――するとその瞬間から、魔法を完璧に使いこなせるようになると言う。 ――事実、その族長は誰も見たことのない魔法を完璧に使いこなした。「あれ? 変ですね。神から魔法を授かった瞬間から、魔法を完璧に使いこなせるようになると言っています」「だろ? 要するに本来なら魔法の練習なんていらねえんだよ。最初から完璧に使いこなせるんだからな。 というか、そもそも神殿の中は魔法厳禁って言ってるだろ? 魔法厳禁の神殿に、魔法に失敗した証拠の赤星が大量に埋まってること自体がおかしいんだよ。 どういうことか? 考えられる答えは1つ。 儀式自体がウソだったんだ。妖精王は儀式なんてやってない。神から魔法なんて授かっていないんだよ」 メモ書きにも残っている通り、妖精王は魔法厳禁のはずの神殿の中で、平気で魔法を使っている。 ――『夜も神殿だ。暗い。光魔法をいくつも使う。星形の白光がいくつも輝く。そこそこ明るくなった。さあ、続きだ』 ――『寝落ちした。真夜中に神殿で目が覚め、完全な真っ暗。光魔法で明るくしようとしたら呪文の最後で噛んだ。恥ずかしい。マジで恥ずかしい。鏡を見ると、光のせいで俺の顔がますます真っ赤に見える』 妖精王に儀式のルールなんて守るつもりはない。 なんで守らないのか? そもそも儀式自体がウソだったからだ。「儀式がウソ……」「そうだ。妖精王が神から魔法を授かったってのはウソだ」「……じゃ、じゃあ一体どうやって魔法を覚えたんです? 妖精王が誰も見たことのない魔法を使いこなして、白ドラゴンを追い払ったのは事実なんですよね?」「そう。問題はそこさ。ちょっと事実を整理してみよう」 妖精王はウソをついてまで神殿で何か(行動Xと呼ぼう)をやっていた。 行動Xについてわかっていることは、次の3つ。 1.神から魔法を受け取っていない 2.膨大な回数、魔法に失敗している 3.行動Xの結果、新しい強力な魔法を使えるようになった「アマミ、お前ならわかるはずだ」「え?」「覚えてねえか? お前はごく最近、1~3を全て満たすことをやっている」「えっと……そんなのやってましたっけ?」「やってるさ。レベルボード偽造だよ」「あのジュニッツさんにこき使われたやつですか?」「お前だって楽しそうにやってただろうが!」 妖精の森に来る前、俺とアマミはこんな会話をしていた。 ――「でも、町に入る時、レベルボードを見られますよ?」 ――「偽造できねえか?」 ――「偽造?」 ――「ああ。レベルボードを偽造するんだ」