ここは退屈でした。 私はどうしてここに閉じ込められているのか。 埋もれるほどにある本を全て読んでも分かりません。 私が自我を持ってから、一体何百年の月日が経ったのでしょうか。 人間がここを訪れたら話を聞こう、と。そう考えていても、この体が私の言うことを聞いてくれません。 心の奥底から強烈な殺意が溢れ出し、私の体は即座に行動へと移します。 嗚呼、また殺してしまった。 なんと呆気ない命。 誰も私の心を満たしてはくれません。 次こそは。次こそは。 しかし殺してしまう。 どうしようもないのです。 ……次第に。私は殺生が楽しくなって参りました。 人間は皆、か弱い。吹けば消ぬよな命の炎は、とっても大切で、愛らしくて、何よりも尊い。ゆえに、どうしても奪いたくなるのです。壊したくて堪らないのです。そう、この手で。 ほら、もっと粘りなさい。強く賢く生きなさい。己の生命力を誇りなさい。その体が活き活きと跳ねたところを私が刎ねて差しあげましょう。 はい終わり! ……たわい無いものですね。 次はいつ来るのか。どのような命が来るのか。どのような風に死ぬのでしょうか。待ち遠しい、待ち遠しい……。 私の楽しみ。私の全て。私が生を感じられる、唯一の瞬間。 そして。 ――来た。ついに。いらっしゃった。私の運命の人。 まるで前世で生き別れた愛しの人であるかのように、私は強い運命を感じました。 しかし体は動き出す。殺害せよと命令が下るのです。どうしても抗えない神の力によって。 嗚呼、嗚呼、嗚呼! 私はこのお方も殺してしまうのですね! なんと……なんと、素晴らしいことでしょう! これほどの愉悦はありません――! …………!? 不意に、私の身体を甘い痺れが突き抜けます。 それは数百年生きてきて初めての刺激でした。何故。どうして。生命の危機を感じている! この、私が! くっ……! 手も足も、出ません! この私が! この私がっ! 有り得るでしょうか!? 否! 有り得ない! しかし有り得ている! ふ、ぅっ……! 痛みが、蓄積していきます! こんな、ああっ、こんなこと、初めてです……! く……ふ……っ! ……く……くふっ、くふふ、うふふふふふふっ! 生きている! 私は生きている!! そうか! 私はこの時を迎える為に何百年もの時間をこの常闇に閉じ込められ、このお方に出会う為に暗黒から生まれてきたのですね! 痛い! 苦しい! 気持ち良いっ!! もっと、もっと痛みを! 苦しみを! 快楽を我が身に! ああっ、素晴らしい! 駄目、死んでしまいそう……! もう、もう終わりなのですね……まこと良き時間でした。最期は貴方の手で絶頂したい。何百年と生きていて初めて抱くことのできた私の夢は、1時間と経たずに叶えられそうです。嗚呼、幸せ……。 ………………えっ? 何を……!? 貴方は、貴方は……私を回復させて……!? こ、このようなことが、現実に! ここは、夢の中なのでしょうか!? 貴方は、まさに、私の理想を具現化したような存在! 貴方のその素晴らしさは筆舌に尽くし難い! 私の運命の人! 私の主様……! ああ、ああああああっ! 最高! もう、最、高……っ! …………。 ……ふふ、うふふふふっ。 あれから私、無我夢中で殆ど意識がなかったけれど。あの悠久を思わせる快楽の連続は、忌々しきこの体が確りと覚えています。 やっと出会えた。私の主様。