その後、俺が向かったのは蝿の王の巣だった場所である。 里を出てから気づいたのだが、里の場所はジライアオオクス――毒消しの実が成る巨樹――からさほど離れていなかったのだ。 ジライアオオクスの場所がわかれば、そこから蝿の王の巣に戻ることができる。 そして、あそこには以前にミロスラフを監禁したときの資材をそのまま残していた。備えあれば憂いなしとはこのことである! ……うん、まあ想定していた用途とは大きく異なっていますけどね。正直なところ、イリアやギルドの受付嬢あたりを連れ込むことを考えて残しておいたのだ。 ま、結果として備えが生きたのだからそれでよし、ということにしておこう。 以前にここを利用していたとき、いちいち出入りするたびに崖を上り下りするのは面倒だったので、壁面に沿ってらせん状に階段をこしらえておいた。 階段といっても、壁に長めの枝を突き立てただけの代物で、まっとうな人間なら絶対に使用しようとは思わないだろう。 だが、勁けいを使える俺にとっては十分に階段がわりになる。少女を背負ったままひょいひょいと洞穴を下っていく。 そうして無事穴底に到着。 妙な魔獣が棲みついていないか心配だったが、さいわい、そういうこともなく、俺は少女を寝台に寝かせることができた。 以前、ミロスラフが使っていたもので、若干おかしな染みがついていたりするのだが……ま、まあ、俺が使っていた寝台よりマシだろう、うん。 ようやく一息ついた俺は、念のため、途中でもいでおいたジライアオオクスの実の一つを頬ばった。 バジリスクの毒が体内に残っている可能性を考えてのことだ。 毒といえば、直接バジリスクと接触していた少女の方も心配だったが、まさか寝ている女の子の口に、この拳大こぶしだいの梅干もどきをねじこむわけにもいかない。嫌がらせを超えて、軽く戦闘行為である。 耳を澄ませてみても、少女の呼吸音に乱れはない。おそらく鬼人族は毒などの状態異常に強いのだろう。 食べさせるにしても、起きた後でかまうまい。 それでも念のため、容態が急変したときに備えて俺も少女のそばで横になる。 バジリスクは討った。少女は助けた。俺自身も五体無事。 結果だけ見ればめでたしめでたしであるが、さて、この後はどうしたものか。 これからもあの里で暮らしていくのは難しいだろう。少女以外の鬼人族がどうなったのかも気にかかる。 なんならこの巣穴を提供してもいいのだが、へたすると、このあたり一帯は腐海ごと灰になりかねないしなあ……そうなれば、住居はあっても食べ物が手に入らなくなる。 食べ物を失うのは人間ばかりではない。魔獣たちだって獲物を求めて動きを活発化させるだろう。 これではとうてい暮らしていけまい。「まあ、この子が起きたら考えようか」 そう呟いて小さくあくびする。 今となっては遠い昔のことのようだが、当初の俺の任務はワイバーンをつかって『死神の鎌』を森まで運ぶことだった。 まだ余力は残っているとはいえ、さすがに身体が重く感じられる。 ここらで少しくらい休息をとってもかまうまい。 俺はそう考えて、そっと瞼を閉じた。