何とかして鹿獲んな 初めて見たシルビアの体は凄いの一言に尽きた。腹筋はほんのり六つに割れ、四肢はきゅっと引き締まり、かといって出るところはむちっと出ていて、柔らかいところはぷにっと柔らかい。その均整のとれた体は、まるで一流のアスリートのようだと感じた。 ステータスが体に現れるのか、それとも体がステータスに現れるのか、もしくは全くもって関係ないのか。よく分からないが、どちらにせよ体は鍛えた方が良いと俺がそう考え始めるくらいには美しいものであった。 素直に感想を伝えると、シルビアは「セカンド殿の方が美しい」と言う。特に鏡を見る習慣がなかったから気付かなかったが、どうやら俺の体も似たような状態らしい。まあ鍛える以上に厳しいことを散々やってきたのでそうなっていてもおかしくはないだろう。食生活もユカリによって完全に管理されているため、もしかしたら俺たち全員アスリートみたいな体が自然とできあがっているのかもしれない。「おはよう」 翌朝。目が覚めると、すぐ隣にシルビアがいた。「うむ」とはにかんだように朝の挨拶を返す彼女は、やはり美しかった。 不意に昨夜のことが思い出される。とんでもなく情熱的だったユカリとは打って変わって、シルビアはただ抱き合っているだけで満ち足りてしまうような乙女チックな少女だった。ユカリとの死闘によって疲労困憊だった俺にとっては嬉しい誤算である。お陰で充分な余裕を持って彼女を可愛がることができた。 シルビアと一階に降りて、共に朝食をとる。不思議なことに、ユカリからチーム限定通信は届いていなかった。恐らくユカリとシルビアとの間で何か談合のようなものがあったのだろう。知らぬが仏である。「セカンド殿。そういえば昨日、第三騎士団と接触したぞ」「おお。どうだった?」「小躍りして喜んでいた。騎士団が今最も欲している情報はまさにそれだ、と」「裏切りを疑われてはいないか?」「どうだろうな。ただ日頃の行いは相当良かったからな」「シルビアが裏切ったとなりゃあ……俺なら人間不信になりそうだ」「おいやめろ。私はセカンド殿は絶対に裏切らないぞ!」 セカンド殿を敵に回すことほど恐ろしいことはない、と呟く。ご名答だと思う。「これからは第三騎士団へと定期的に報告へ上がることになっている。そこでこちらが有利になるような情報を小出しにしていけとウィンフィルドは言っていた。また、それと並行して――」「公文書と原本の捜索、か」「うむ。まあ、捜索と言うよりは情報収集だな。第三騎士団から直接得られる情報は大きい。なんせR6と協定を結んだ当事者たちだからな」「絶対に何かを隠しているな。もしくは、隠すように言われている」「それを明るみに出すのが、私たちの先立っての目標というところか」 シルビアはやる気満々のようだ。それもそのはず、正義大好きな彼女のことである、今回の仕事はやり甲斐の塊と言っても過言ではないだろう。「じゃ、俺はそろそろ出勤だ」 生涯で出勤という言葉を使う日が来るとは思わなかったが、事実、今俺は第一宮廷魔術師団特別臨時講師として給料をもらっている。これは出勤で間違いないでしょ。 宿と食事の料金を支払って、宿屋を出る。シルビアが「いってらっしゃい」と言って顔を真っ赤にしながらちゅーしてくれた。 超、いってきます――。