「其方達は楽しそうだな。私は、笑って食事をした事などなかった……」「カナン様のご実家でもですか?」「私の父と母は、私をどこに輿入れさせるか、それしか考えておらぬ方々だったよ」「広く豪華な部屋に贅沢な料理。そして物言わぬ家族――私が想像するに寒々しい食事風景でございますね」「ほぼ合っておる。私が求めてきた女の幸せとは、いったい何だったのか……」 夫人は、湯船に浸かったまま、バシャバシャと顔を洗い始めた。「じゃあ、そういう事で」「待つがよい! 今の会話で何も思わんのか?」「いやぁ、私のような平民には、遠く離れた異世界の話のように思えますが。あまりにも住む世界が違いすぎますね」 残念ながら俺は、20歳過ぎた女の涙は信用しない事にしている。 彼女は長くしなやかそうな脚を上げて、その美しさを誇示しはじめた。「これだけ女が、無防備に肌を晒しているのだ、もうちと何かあるであろう?」 夫人は身体を捻ると、丸くて白い尻を持ち上げて、俺を誘ってくる――なるほど、金髪なので下の茂みも金髪だ。 いや、そんなことはどうでもいい。「いやぁ、全然。そんなに相手が欲しいのであれば、カナン様なら、よりどりみどりでございましょう? 例えば、騎士の連中とか……」「あやつらは、いざという時には借りてきた猫だ。何の役にもたたぬ。もう、私も小娘ではないのだ。この熟れた身体を持て余し、いったいどうすればよい?」「はっはっはっ、全く子供には聞かせられぬ話でございますなぁ。それでは、そういう事で」「待つがよい!! 女の、このような身の上話を聞いて、其方は何も思わんのか?」「さぁ、私には住む世界が違いますので」「キィィ!」 夫人は、俺が思い通りにならないのに腹を立てて、湯船の水面を脚でバシャバシャとした後、そのままお湯の中へ沈んでしまった。 話は解るし、可哀想だとは思うのだが、俺にメリットが全くといっていいほど何もない。 それに後で面倒事になるのは、目に見えてるからな。俺は小屋から出ると、外にいたプリムラに話しかけた。「プリムラ、夫人は何か鬱憤が溜まっておいでだ。話し相手になってくれないか?」「解りました。何か商売の良い話をいただけるかもしれません」「これ、石鹸とリンスな」 一緒に、タオルとバスローブも渡す。夫人は友達もいないようだし、話し相手なら同性の方が良いだろう。「俺らは、最後に旦那と一緒に入るかぁ」「そうだにゃ」「アネモネも、プリムラ達と一緒に入ってもいいんだぞ?」「私も、ケンイチと一緒だから!」 2人が風呂から上がってくるのに備えて、ジェットヒーターを設置しておく。 風呂がある小屋の中は静かだ。2人が裸の付き合いで何を話しているのは不明。 俺は家に入ると、ベッドと寝間着の用意した。夫人用のベッドも出す。 そして飲み物だ。風呂あがりといえばフルーツ牛乳。