少女の胸に、ほんの小さな予感がひとつ浮かぶ。 それは次の台風が来るときは、きっとわくわくしながら待つだろう、という予感だ。 肩を並べ、飽きることなく2人は夏色の青空を楽しんだ。 がちゃりと玄関の開く音がし、本を読んでいたマリアーベルは椅子から立ち上がる。 顔を覗かせるのはやはりスーツ姿の北瀬で、珍しく申し訳なさそうな表情を向けてくる。「遅くなって悪かったね。帰りの電車が遅れてしまって……あれ、何か良い匂いがしないかな?」 明るい表情のマリーからカバンを受け取られ、北瀬はネクタイを緩めながら部屋の匂いをくんくん嗅ぐ。部屋を充満するのは、たっぷりの香辛料と調味料の香りだ。「やあ、カレーを作ってくれたのかい? ありがとう、マリー。おなかが空いていたから嬉しいよ」「んふっ、きっとあなたは遅れると思ったもの。さあ、着替えたら席についてちょうだい。今夜は第三階層を攻略しなくちゃいけないのよ?」 雑誌を読みながら横目で見ていたウリドラは、何やら微笑ましい思いをさせられる。背伸びをし、台風なんて怖くないという表情をするマリーに、だ。 ズズと珈琲を飲むと、ウリドラは見つからないよう小さく微笑んだ。 台風のおしごとも、どうやら無事に終わったらしい。