えげつない相手 一晩中語り合って、朝。 3人にはなんとか納得してもらった。チーム限定通信で毎日報告をしろとのことだ。少々面倒くさいが仕方ないだろう。 シルビアとエコには、俺がいない間に「一人でリンプトファート周回」の特訓をするよう命令した。とは言っても一人きりで潜るわけではなく、2人で潜って片方が戦い片方は後ろで見守るという形だ。「些かエコには厳しいのではないか?」 シルビアがそんなことを言っていた。確かにエコは【盾術】と【回復魔術】しか使えない。道中の魔物一匹にさえかなりの時間がかかるだろう。 だが、答えは否だ。どちらかといえばシルビア、お前の方が厳しいぞ。 今回の特訓で二人はきっと前衛・後衛の大切さを思い知る。初心忘るべからず。俺が帰ってくるまでに成長してくれていると助かるな。 一方、ユカリについては休暇としておいた。 ……が、あまりに突然やることが減りすぎても逆に困るだろうから、長期的な案件を一つだけ頼んでおいた。《解体》スキルが九段になり次第、能動的にコツコツやり始めることだろう。 と、そんなこんなで彼女たちとは暫しのお別れだ。 豪邸を出ていく際、門の前に大勢の使用人たちが整列していて、3人と一緒に俺を見送ってくれた。 俺は少しばかり照れくさくて、全員に「ありがとう」と伝えてからセブンステイオーを加速させる。 これから向かうのはペホの町。そこから港町クーラへと行って、船で海に出る。ほど近い場所にある小島に、甲等級ダンジョン『アイソロイス』は存在する。 道中ちょいとアシアスパルンダンジョンに用があるので、今日はペホの町で一泊する。翌日は一日中移動で、クーラでもう一泊。つまり、アイソロイスへ挑むのは明後日だ。 さて。 俺はこれから長い時間を共に戦ってくれる心強い相棒と情報を共有しようと、《精霊召喚》を準備してマナーモードで召喚した。「(――馬上で召喚とは何事だ我がセカンドよ)」 精霊大王アンゴルモアは召喚されるやいなや念話で訴えてくる。「(これからクソ強い敵とヤリ合いに行くから情報共有だ)」「(何! それはまことか!)」 アンゴルモアのテンションが目に見えて上がった。若干分かってはいたが、こいつ結構な戦闘狂だよな。「(どうどう。クソ強いと言ったがそれは間違いだった)」「(なんだと?)」「(えげつない強さだ。もう滅茶苦茶だ。初見で勝てる奴がいたら裸で土下座してやってもいいレベル)」「(ほう! 我がセカンドにそこまで言わせる相手か! 血が滾るわ! フハハッ!)」「(暗黒狼という敵だ。俺はこいつをテイムしたい)」「(テイムだと! 然様な強敵を!)」「(そうだ。半殺しにしてテイムして失敗したらまた振り出し。これを繰り返す)」「(何たる勇猛。天晴れである。しかし、ぬうぅ……それは長い戦いになりそうだ)」 色々と話していたらペホに到着した。 宿をとって、アシアスパルンへと向かう。「(何をしに向かう?)」「(ゴブリンメイジの角を取りに行く。まあ、端的に言って“奥の手”の準備だな)」「(……ほほう。抜かりないものだな)」 アンゴルモアは一体感で俺の考えていることを読み取ったのか、感心するように呟いた。 俺はサクッとゴブリンメイジの角を採取して、ペホの町へと帰る。 ついでにペホのポーション専門店でありったけの高級ポーションを買い占めた。ウン千万CLだった。既にインベントリには一生かかっても使い切れないくらいの量の高級ポーションがあったが、それでも買えるときに買っておいて損はしない。何故なら、これから嫌というほど消費することになるのだから。