白のロイド 斬り掛かる兵たちを振り払うブルーツとベティー。「はぁ、はぁ、はぁっ! くそっ!」「もう大混戦だねっ!」 レガリア城北東での巨大な衝撃。 これにより、レガリア城内は騒然とし、無数の兵たちが、ポチや銀の三人を捕えようと動いていた。「ふん! ポチを主軸に陣形を崩すなよ!」 ブレイザーの指示にブルーツとベティーは「わかってる!」と返答し、ポチが厳しい顔つきで正面の敵の攻撃をかわす。「マスターは、マスターは大丈夫でしょうかっ!」 次第にポチの顔は焦燥に溢れ、その背後を駆ける三人たちにすらそれを理解させた。 だが、そんなポチを心配するより、大事な事を伝えるべく、三人の顔は笑みに変わる。「へっ、アイツがやられる訳ないだろ!」「んま、たとえやられたとしてもタダでは起き上がらないわよね!」「我らが戦友は、そういうヤツだったはずだがっ?」 ブルーツ、ベティー、ブレイザーのアズリーへの信頼。 ただそれだけを示し、ポチを安心させる。 しかし、全ての不安を拭えた訳ではない。それだけガスパーがポチに与えた衝撃は大きかったのだ。 それでもポチは、ヴァースを探し続ける事しか出来ない。 先のアズリー同様、ポチの顔もまた悔しそうであった。「だけどこっちであってんのか!?」「もう大きな部屋は大体見たし、行ってないのったら、こっちしかないわよ!」「ポチ、どうだ!」「っ! こっちに魔力の痕跡があります! ……でもっ」 そこまで言ったところでポチは黙ってしまう。 そして、その言葉を拾った者は、この場にいなかった。(でもこの魔力……っ) ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ゆらりゆらり白いローブの男が歩く。 時刻は深い。けれども光に満ちた巨大な一室。 そこは聖堂のような場所。けれども周囲には悪が満ちている。 悪は、四つ足で音を立てず歩き、鼻をヒクつかせながら男を囲う。 悪とは即ちビリーが作ったアルファ。 アルファは数にして二十はいるだろう。 白いローブの男、アルファたち、しかしそれ以外にも誰かがいる。 移動用の車椅子に座り、ただひたすら虚空を見つめる少年のような、しかし青年のような、そんな男がいたのだ。 この中で音を発する者はいない。 白いローブの男はゆらゆらと動くばかり。 アルファはこの一室への大扉を睨むばかり。 そして車椅子の男は人形のように一点を見つめている。 大扉の奥から聞こえてくる喧騒。 それは次第に大きくなる。まるで足音のように。 ポチが無意識に捉えた魔力の痕跡。その終着点がここなのだ。 そして、アズリーとリーリアもポチの後を追っているのだ。『おぅらっ!』 大扉の奥から聞こえたブルーツの声。 もう近くまで敵が近付いている。アルファは牙を剥き出し、身を低くさせて臨戦態勢となった。『あっ! マスターが近付いてきます!』『ならちょうどいいわ!』『この扉が――最後だっ!」 ブルーツが大扉を蹴破る。 巨大な一室内から跳びかかるアルファ。『ぬんっ! エアリアルダンサー!』 ブレイザーが放つエアリアルダンサーは的確にアルファの首を落とし、続くベティーが匕首を投げて三匹のアルファの動きを止める。「ポチさんにお任せです!」 そう叫んでポチが跳び上がるも、「……はぇ!?」 ただ着地するだけで、攻勢に出られなかった。「な、なななな何ですかアレ! 何か私に似てません!?」「あん? ポチってあんなんだっけか?」「身体も皮ないし、筋肉だけの塊みたいじゃない?」「だが、中々強いな」 ブレイザーが剣を構えながら呟く。 しかし、そうは言いつつも、見据えるのはアルファではなく、その奥にいた白いローブの男。 それはこの場の全員が気付いていた。 ブルーツは襲い掛かって来たアルファを縦に両断した隙間から目を覗かせ、男を捉える。 やがてアルファの死体が地面に落ちる。「ありゃ、さっきアズリーが戦ってたイシュタルとどっこいどっこいってところか?」「油断するな。隠してる実力は未知数だ」「って事はあれがヴァースさんです?」